工場
投稿日:2023.05.26
更新日:2023.05.29
今回は、食品工場や飲食店において、厨房火災の大きな要因となる油煙と、油煙による火災を防ぐためにどのような対策を施すべきかについて解説します。
排気ダクトは、不燃材料で構成されているため、適切な維持管理がなされている限り、厨房設備から出火したとしても、即座に延焼することはありません。しかし、油煙の処理が不徹底だった場合、この排気ダクトなどが延焼媒体となり火災が拡大する恐れがあります。
そこで当記事では、食品工場などでなぜ油煙が発生し、どのような被害が考えられるのかについて解説します。
油煙がどのような物かを簡単に解説します。Wikipediaでは、油煙について以下のように記載されています。
油煙(oil mist)とは、気体中に1〜10μm程度の油滴が浮遊しているものを指します。
引用:Wikipedia
要は、空気に油が混ざったものが油煙と呼ばれます。
食品工場や飲食店の厨房では、調理の際に発生する油と水蒸気が混ざった湯気が油煙です。食品工場などでは、調理の際に生じる油煙を効率よく排気するため、環境に合わせたレンジフード・換気扇が使用されています。しかし、レンジフード・換気扇のフィルターは、油煙による汚れで徐々に目詰まりが起き、新しく発生する油煙の排気効率が下がります。
この状態が続くことで、排気ダクト内やキッチン全体に油分が付着し、火災発生時にその油分が延焼媒体となり、火災を拡大させる危険があります。実際に、食品工場や飲食店では、さまざまな設備が進化した現在でも、火災の発生件数が横ばいもしくは増加傾向となっています。
食品業界では、食品衛生法の改正により、全ての食品関連事業者にHACCPによる衛生管理が義務化されるなど、『衛生面』という観点では、ここ10年で大きく変化してきました。
2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
230 | 270 | 276 | 240 | 250 | 212 | 222 | 213 | 195 | 241 |
2010年 | 230 |
---|---|
2011年 | 270 |
2012年 | 276 |
2013年 | 240 |
2014年 | 250 |
2015年 | 212 |
2016年 | 222 |
2017年 | 213 |
2018年 | 195 |
2019年 | 241 |
しかし、上の表を確認すると食品工場での火災は、ここ10年の間、劇的な増加や減少と言った変化を見せることはなく、横ばいです。
上図は、食品工場において、特に出火が多いとされる、作業場・工場部分における出火箇所と出火原因をグラフ化したものです。
食品工場では、調理のためにさまざまな燃焼機器が使われているため、カテゴリしにくいという背景から、『その他燃焼機器』という部分の数字が突出して大きくなっています。それでも、フライヤーやコンロからの出火を含めると、約6割の火災原因が燃焼機器関係だったことが分かります。
食品工場での火災発生件数はここ10年の間、ほぼ横ばいという傾向を見せています。その一方で、飲食店における火災発生件数は、増加傾向にあるというデータが出ています。また、飲食店での火災は、厨房からの出火が半数を占めています。
引用:東京消防庁資料より
全体の火災発生件数は大幅な減少傾向を見せているものの、飲食店での火災件数は増加しています。
引用:東京消防庁資料より
飲食店での火災は、その約半数を厨房からの出火が占めているのですが、出火原因は調理中に火をつけたままその場を離れ、火災に至るケースが多いようです。さらに、消防庁による調査によると、油煙などにより排気ダクト内に油脂が溜まっており、そこに引火することで急速に延焼拡大するというケースが考えられるようです。
以上のことから、飲食店での火災も、油煙対策を徹底することで、火災防止もしくは被害を最小限に抑える事に繋がります。
次に、油煙が食品工場などにどのような被害を及ぼすかを詳しくご紹介します。ここでは、東京消防庁が作成した「飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策ガイドライン」から、油煙による影響を画像でご紹介します。
前項でご紹介したように、食品工場や飲食店では、加熱調理場の設備機器が出火原因となりやすいです。そして、火災の延焼を拡大してしまう要因が、油煙による油が蓄積した排気ダクトなどです。
本来、排気ダクトなどは、厨房設備からの出火が発生した場合でも、火災を延焼させないために不燃材料が用いられています。しかし、上画像のように、適切な維持・管理がされておらず、油脂が付着・蓄積している場合には、排気ダクトなどが延焼媒体となり、火災を拡大させます。
なお、一般的に排気フード内には、炎が侵入するなど、異常な温度上昇を感知すると、自動的にダンパーを閉じてダクト内に炎や煙が入らないように遮断する防火ダンパーが備え付けられています。ただ、この防火ダンパーも、油煙による油の蓄積などがあると、正常に動作できなくなり、本来の防火の役割を果たさなくなります。
食品工場の加熱調理場や飲食店の厨房などは、油煙の発生そのものを無くすことはできません。よって油煙による汚れの除去など、排気ダクト等の維持管理を徹底する必要があります。
調理の際に発生する油煙は、生産エリア内の衛生面の悪化にもつながります。適切な維持・管理が行われていないレンジフード・換気扇は、油煙によりフィルターの目詰まりなどが発生することがあります。そして、この場合には、換気効率が低下することで、生産エリア内の壁や天井、床などにも油脂が貯まることになります。また、換気機能が低下していることから、ホコリなども効率的に排除できず、油脂にホコリが付着することでホコリだまりを作る要因にもなります。このホコリだまりも、火災を拡大する原因になり、さらに食品を取り扱う場所としては、衛生的にも好ましくない状況になります。
調理の際に、油を多く使う環境や高温になる環境の場合、部屋間を移動する際に、空気の流れが建具周りに集中し、自動扉の駆動部分に油が付着し、動作不良や製品寿命を短くする原因になります。したがって、油を多く使用する環境や高温になる環境など、油煙の発生量が多いエリアでは、以下のような工夫を検討する必要があります。
油煙の対策としては、まず発生した油煙をその場で排気処理することが最も効果的ですが、実施できない場合、上画像の左側赤丸部分のように、エンジン部分を油煙が発生しない部屋側に設置する、もしくは、通路側に設けるなどと言った対策が効果的です。これにより、駆動部分へ油の付着を防ぐことができ、動作不良や早期の故障を防止することができます。
今回は、火災の発生や被害拡大の要因となる『油煙』について解説しました。
さまざまな食品の調理を担う食品工場では、「油煙を発生させない」という対策は不可能でしょう。したがって、油煙対策の考え方として、発生した油煙を「その場で回収する」または「発生元の近くで回収ができる環境を設計する」ことが大切です。
万全な油煙対策を行いたいと考える場合には、これに加えて油煙が発生したとしても『掃除がしやすい環境を作る』ことがポイントになります。記事内で紹介したように、油煙を回収する排気設備は、火災による延焼を防ぐため、基本的に不燃材料で構成されています。しかし、適切な維持・管理が行われていない場合、排気設備内部に油が堆積し、延焼媒体になります。食品工場や飲食店の厨房では、油煙の発生を防ぐことはできないため、油煙が発生した後のことを想定して「清掃しやすい建材の選定や、日々の清掃方法の周知」など、日々のメンテナンスが容易になる環境を目指すことが大切です。
食品工場の設備の見直しや入れ替えの際に、改修や修繕をご検討の方は、三和建設のFACTASにお早めにご相談ください。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。