工場
投稿日:2024.10.30
働き方改革や新型コロナウイルス感染症による影響の拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻、パレスチナ問題などによる不安定な世界情勢の影響を受け、建設業界を取り巻く環境は大きく変化しています。
現在、工場や倉庫などの大規模施設の建設を計画したとしても、設計や施工を請け負ってくれる建設会社がなかなか決まらないという理由から、食品工場以外の工場建設を検討している企業様からも三和建設へのご相談が増えています。
工場は、製造業界の会社にとってまさに心臓部とも言える施設で、希望する工期や予算で工場の建設が出来なければ、事業計画に大きな影響を及ぼします。
そこでこの記事では、建設会社が工場建設をすぐに請け負ってくれない理由と業界に立ちはだかる課題をご紹介します。
Contents
まずは、建設業界全体が抱えている課題についてご紹介します。
建設業界では、労働力不足が非常に深刻な問題となっています。国土交通省が公表した「建設業を巡る現状と課題」の中でも、建設業界での急速な人手不足の加速が問題視されています。
上のグラフから分かるように、建設業界では急速な高齢化が進む一方で、若手の入職率の低下により、業界全体の人手不足が加速しています。業界の人手不足は、建設業就業者数のデータからも明らかで、平成9年に685万人だった建設業就業者数は、僅か20年余りで479万人(令和4年)と200万人以上も減少しています。さらに、令和4年の建設業就業者数の割合は、3割以上を55歳以上の方が占めていて、29歳以下の若手人材が11%程度にとどまっています。
建設業界では、建設資材の高騰やガソリンや電気料金などのエネルギー価格の高騰によるコストの上昇も大きな問題となっています。
電気代やガソリン代の高騰に関しては、建設業界だけでなく日常生活にも大きな影響を与える問題であることから、新聞などでも大きく取り上げられています。エネルギー価格の高騰は、大型機械や車両、建設機械を使用する建設現場へ与える影響が非常に大きく、業界の現状に影を落とす問題となっています。さらに、ウッドショックやアイアンショック以降も木材や鋼材の価格高騰は続いています。
建設コストの上昇については、特殊倉庫建設ブランドRisokoの記事で詳しく解説しています。参考:建築費指数グラフでみる倉庫(用途別・構想別)の物価上昇推移
建設業界では、倒産件数の増加も深刻な問題です。東京商工リサーチが公表した2023年(1-12月)の建設業の倒産件数は1,693件で、なんと前年比41.7%増という結果になっています。増加率40%超は、32年ぶりのことであり、この倒産件数の増加は各所にさまざまな影響を及ぼすのではないかと予想されています。なお、建設業界での倒産件数の増加は、以下のようなことが要因と考えられています。
建設業界の倒産件数の増加は、現状の業界に大きな影響を与えるだけでなく、次世代への技術継承問題など、将来にも影を落とす問題となるでしょう。
参照:東京商工リサーチより
建設業界全体で、現状どのようなことが問題視されているのかを解説しました。ここからは、建設会社が工場建設をすぐに請けられない理由について、いくつかのポイントに分けてご紹介します。
一つ目の理由は、建設業界で深刻な問題となっている人手不足です。先ほどご紹介したように、建設業界では高齢化の進行と若手人材の入職率低下により、労働力を確保することに苦戦している企業が増加しています。
建設会社の人手不足は、作業人員を確保できないことによる工期の遅延や受注機会の損失につながり、業界全体の生産性低下を引き起こしています。さらに、将来的には、熟練工の減少により技術継承が困難になり、業界の品質管理にも大きな影響を及ぼすのではないかと危惧されています。建設会社における人手不足解決の対策として、外国人や女性の雇用促進する動きが進んでいます。これにより新たな層の人材確保を図ろうとしていますが、現状ではまだ十分な効果をあげるまでには至っていません。
「建設会社が工場建設をすぐに請けられない」理由としては、単純に建設会社側が人手不足に陥り「忙しい」ということも一つの理由になっています。特に、2023年以降は、新型コロナの5類移行により、経済活動が本格的に動き始め、民間工事を中心に受注環境は急激な回復基調を見せています。コロナ禍で見送られていた工事が一気に消化され始めたことにより、建設業界の人手不足はより一層深刻化しており、サブコンなど下請けのスケジュール調整が難しいなどという理由で受注環境が整わないという企業も多くなっているとされます。
建設業界では、あらゆる面で価格高騰の影響を受けており、これが「建設会社が工場建設をすぐに請けられない」一つの理由となっています。建設業界での価格高騰の状況については、「建築費指数グラフでみる倉庫(用途別・構想別)の物価上昇推移」をご確認ください。
建設業界での価格高騰は、工事の受注環境だけでなく、施工中の工事にも影響を与えています。以下は、国土交通省が公表した資料から抜粋したデータです。
引用:国土交通省資料より
建設業界で資材価格の高騰が問題となっており、多くの建設企業が注文者へ契約変更協議の申し出を行っているというデータがあります。建設資材物価は、2021年1月頃と比較して、僅か2年の間に28%も上昇しており、建設会社にとって非常に大きな負担となっています。また、今後も世界情勢の不安定さや政府による賃上げ要求も影響しており、さらなる物価上昇が予想されています。そのため、工場建設の相談があった場合でも、「費用が合わない」「今後の物価予測が立たない」という理由により、なかなか請け負ってもらえない状況が生じています。
建設資材については、価格高騰だけでなく、設備関連や一部建設資材の納期遅延が頻発しており、これが工事の工期全体に影響を与えるようになっています。そしてこの問題は、「建設会社が工場建設をすぐに請けられない」一つの理由となっています。例えば、日本建設業連合会が公表している資料によると、以下のような建材に対して「納期遅れあり」という認識を持つ会社があるようです。
引用:日本建設業連合会資料より
建築関係では、躯体・仕上げ・設備など、幅広い分野で納期遅延が発生しています。資材の納期遅延は、当然、工期へも影響を与える問題となります。さらに、工期への影響以外にも、追加工事の発生などによる建設会社のコスト負担増といった問題も発生しています。例えば、一時的に代替品で仮引き渡しをするという対応が行われる場合があるのですが、この際には、資材の調達後に再度工事を行い完成させることになるため、代替品の調達や追加工事の費用が建設会社の負担となるのです。
昨今の、「建設会社が工場建設をすぐに請けられない」という問題については、資材の納期問題が深く関わっている場合があります。
今回は、建設会社が工場建設をすぐに請けてくれない理由として、昨今の建設業界が直面する深刻な問題をご紹介しました。建設業界では、労働者の高齢化と若手人材の入職率低下による人手不足が加速度的に進んでいます。そしてここにきて、新型コロナウイルスの影響からの経済活動再開により、建設会社が「忙しい」という理由で工事を受けられない状況が増えています。これに対して、外国人労働者の雇用促進やデジタル技術を活用した省人化など、多角的な解決策が模索されています。
ただ、ウクライナ問題やパレスチナ問題など、世界情勢の不安定化がしばらくは続くと予想される現状において、エネルギーや建築資材の価格高騰がさらに進む可能性があります。工場は製造業にとって心臓部とも言える必要不可欠な施設であり、計画通りに建設工事が進まない場合、事業の収益に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、「工場建設を受けてもらえない」という理由で事業計画に支障をきたさないためには、出来るだけ早く建設会社に相談し、受注してもらえる会社を確保することが大切です。
規模にもよりますが、三和建設の最も早いプロジェクト着手時期は来年度以降となります。特に設計・施工の難易度が高い食品工場建設には時間を要するため、建て替えや改修をお考えの方は、ぜひお早めにご相談ください。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。