食品
投稿日:2024.09.26
今回は、食品工場をできるだけ長く、良い状態で維持するための長期保全計画について解説します。
どのような建物でも、完成した瞬間から劣化が進行します。建物を適正な状態に保つためには、定期的な点検などを通して常に建物の状態を把握し、経年劣化、陳腐化および要求水準の不適合などを要因とする機能・性能劣化への対処が必要となります。長期保全計画とは、建築物や建築設備の良好な状態を維持するために点検・保全計画を策定し、経年劣化による性能低下や将来的な利用形態を見越して、適切な改修項目や時期の決定を行う取り組みを指します。
食品工場などの製造施設は、予期せぬトラブルで生産活動が止まると、事業全体に大きな悪影響を生じさせてしまいます。したがって、工場を安定的に稼動させるためには、中長期的な視点を持ち計画的に保全する必要があります。
そこで当記事では、食品工場の長期保全計画を策定する意味などについて解説します。
食品工場などの施設の耐用年数(寿命)には、「法定耐用年数」「経済的耐用年数」「物理的耐用年数」の3つの考え方が存在します。工場をできるだけ長く、良い状態で使用するためには、適切なタイミングで修繕や改修工事を行う必要がありますが、その判断基準として、この3つの耐用年数のいずれかが用いられます。以下では、3つの耐用年数について解説します。
法定耐用年数は、法律で定められている建築物の耐用年数です。具体的には、国税庁が定めた減価償却資産の耐用年数のことを指し、実際の建物の寿命ではありません。なお、法定耐用年数は、建物以外にも、さまざまな物品が定められています。工場や倉庫については、建物構造によって細かく分類されていて、以下のような年数が設定されています。
法定耐用年数は「法定」という言葉が使われているため、絶対的な基準のように感じますが、「その建物が使えるかどうか?」の基準ではなく、減価償却費の算定基準に過ぎません。法定耐用年数の詳細については、以下の国税庁の公式サイトを確認してください。
建物の物理的な状況に限定した耐用年数で、建物躯体や構成材が物理的あるいは化学的要因により劣化し、要求される限界性能を下回る年数を指します。要するに「モノ」の劣化によって、物理的に使用できなくなるまでの年数を指します。
物理的耐用年数は、最も「寿命」という言葉の意味合いに近いように感じますが、使用状況によって変化しやすい不動産の耐用年数に用いられることは少ないです。
理由としては自然災害の影響や立地特性などにより物理的な状況が変わるため、同じ建築構造でも一定の年数を設定しにくいからです。物理的耐用年数は、電化製品やバッテリーなどに用いられる場合が多いです。
経済的耐用年数は、建物を継続的に使用するために必要なメンテナンスや修繕、改修のコストが、改築費用を上回るまでの年数を指します。要するに物理的にその建築物の価値が存在できる年数が経済的耐用年数です。
例えば、法定耐用年数が38年に設定されている工場でも、50年以上使うことができれば、その工場の耐用年数は50年以上あったということになります。しかし、50年以上使用するには、莫大な維持・修理費用がかかり、かえって赤字になってしまう場合は、経済的に合理的とは言えません。この場合は、その建築物は経済的耐用年数を過ぎていると判断できます。
経済的耐用年数は、建築物の用途やメンテナンス状態などによって変わってくるため、一概に設定することはできません。
食品工場をはじめ、さまざまな施設の長寿命化を目指すために注目されている手法が長期保全計画の策定です。
実は、建築物の長寿命化は、民間企業だけでなく、国や各地方自治体が所有する施設でも喫緊の課題とされています。実際に、国土交通省では、以下のような取り組みが始まっています。
引用:国土交通省「長寿命化・老朽化対策」より
食品工場などの施設は、一度完成すると頻繁に故障するといったことはなく、定期的な調整なども特に必要ありません。そのため、設備が故障したり、経年劣化して雨漏りが発生した時に、その都度業者に連絡して修理などの対応をしてもらう企業が多いです。いわゆる「事後保全」と呼ばれるやり方で、建物の竣工後は、普段は特に何もせず、何らかの問題が発生したらその時に必要な対処を行うという対応になりがちです。
しかし、昨今では、事後保全による施設の維持管理では施設整備にかかる費用が高額になりやすいため、予防的に施設整備を進めるために長期保全計画を策定するという動きが強まっています。実際に、佐賀県県有施設長寿命化指針では、今まで通りの事後保全的なやり方について、以下のように指摘しています。
2-2 多額の施設建替費用
これまでの施設整備の考え方は、使えなくなれば壊して建替えるというスクラップ・アンド・ビルドが前提となっていましたが、この考え方で、これまでと同様の周期で施設の建替を進めた場合、その費用は多額となることが予測されます。将来の財政状況を踏まえれば、これまでどおりの周期で建替を行うことは厳しい状況です。
2-3 事後保全による維持管理
これまでの県有施設の保全の方法は、故障や不具合が生じてから、対症療法的に行う「事後保全」がほとんどでした。「事後保全」では、故障や不具合の影響により保全の規模が拡大する場合があり、財政負担の増大を招くだけでなく、場合によっては行政機能の停止につながるおそれもあります。
引用:佐賀県県有施設長寿命化指針
上記のように、今まで通りの事後保全による施設整備では、コスト的な負担が大きくなると考えられ、事後保全による施設整備では、重要設備の故障で機能そのものがストップしてしまう恐れがあるなど、非常にリスクの高い維持管理手法とみなされるようになっています。
長期保全計画の策定は、建物が完成した後、数年から数十年単位の中長期間に渡って維持・保全計画を事前に策定して、その計画に沿って施設整備を履行していく手法です。施設の各部位や設備ごとに耐用年数を想定し、それに合わせて補修や更新計画を策定し、予算を引き当てておくという維持管理方法となります。これは予防保全という方法で、国土交通省などは、長期保全計画の策定により、既存施設の使用年数を現状の40年から65年程度に延ばすことを目指すとしています。
つまり、長期保全計画は、施設の長寿命化と維持管理にかかるコストの削減が目的なのです。
今回は、食品工場をできるだけ長く、良い状態で維持するための長期保全計画について解説しました。
長期保全計画の策定は、数年から数十年単位で施設の維持・保全計画を策定するので、場当たり的な対応ではなく、計画的に施設の維持・保全を図ることができるようになります。当然、施設のメンテナンスや修繕にかかる費用は、中長期的に費用支出を見込むことができるようになるため、修繕費用をあらかじめ積み立てておくなど、計画的な資金調達が可能となります。
食品工場などの製造施設で、予期しない突発的な不具合が発生した場合、生産活動の中断を余儀なくされ、事業活動そのものに大きな影響を与えてしまうことになります。中長期的な視点で施設の維持・保全計画を策定しておけば、いざ不具合が発生した時に、慌てて資金の調達に動かなければならないなどといった事態を防ぐことができ、安定的に事業を継続することができるようになるでしょう。
また、昨今の物価高やエネルギーコストの高騰を踏まえると、施設の維持・保全活動を適切に行える体制を整え、長寿命化を目指すことが、トータルコストを低減する鍵となります。予防的な保全活動は、壊れてもいない部分に対してもメンテナンスを行うため、オーバーメンテナンスとなり、コスト負担が大きいと感じられるかもしれません。しかし、適切なタイミングでメンテナンスが行われない場合、早期の建て替えなどにより、さらなるコスト高につながります。
日本では、今後も物価の上昇、建築コストのさらなる上昇が予想されています。そのため、食品工場などの大型施設は長期的な延命を目指した取り組みがこれまで以上に重要となるでしょう。
食品工場・食品関連施設に関わるトータルソリューションブランドFactasは食品工場の建設・改修だけでなく長期保全計画の策定もサポートいたします。まだ策定していない企業様は、ぜひお早めにご相談ください。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。