食品
投稿日:2022.11.30
更新日:2024.11.19
2021年6月から、HACCPの導入・運用が完全義務化となっていますので、食品関連事業者は既に対応を済ませていることでしょう。
しかし、食の『安全』を考えた時、「HACCPによる衛生管理」が行われていればそれで十分かというとそうではありません。食品の安全性を確保するための対策には、「フードセーフティ」と「フードディフェンス」という2つの考え方があるのですが、日本では、フードディフェンスへの対策がまだ不十分だと言われています。HACCPは、「意図的ではない異物混入などを防止するための取り組み」が盛り込まれていますが、これはフードセーフティのために講じられる対策で、『意図的な異物混入』を防止することはできません。そこで、悪意がある人により、意図的に異物や有害物質を食品に混入し、重大な食品事故に発展するのを防ぐための対策として考案されたのがフードディフェンスという考え方です。
当記事では、フードディフェンスの概要や具体的な取り組み内容をご紹介します。
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フードディフェンスとは「食品に対する意図的な異物混入を防ぐ」ための取り組みを指しています。日本語に直訳すると『食品防御』となり、食品に入っていてはいけないもの(食用に供せない異物や有害物質)が第三者の手によって意図的に混入されることを防ぐ取り組みのことです。
フードディフェンスは、HACCPを補完する形で導入されています。先ほどご紹介したように、HACCPはあくまでも「意図的でない異物混入」という危害を防止するための衛生管理手法であり、悪意がある人の手による危害は想定していません。
フードディフェンスは、2001年にアメリカで起こった同時多発テロをきっかけとして、食品の安全性を守るために始まった取り組みと言われています。日本国内でも、過去に冷凍食品に有害物質が混入される事件が起きており、食品の安全性は消費者からも非常に高い関心を持たれ、多くの食品関連事業者においてフードディフェンスへの取り組みが重要視されるようになりました。
フードセーフティはフードディフェンスとは異なり、食品管理において「人為的なミス」や「機械の故障」など、意図的でない行為による異物混入を防ぐための対策です。
フードセーフティとフードディフェンスの両方を実施することで、食の安心・安全体制を強化することができます。
HACCPはフードセーフティの代表的な管理手法です。
HACCPによる衛生管理は、「人為的なミス」や「機械の故障」など偶発的な『事故』による食品への危害を防止するのが目的です。食品への異物混入防止に関する事項が想定されています。
しかし、HACCPでは「悪意のある第三者による食品危害」は想定されていないことから、食品テロなどの危害を十分に防止することができません。フードディフェンスは、異物混入の要因として「悪意のある人」の存在まで想定している点が、HACCPなどのフードセーフティとの明確な違いです。
関連記事:HACCP(ハサップ)とは?義務化された食品衛生管理手法をわかりやすく解説
それでは、第三者による異物混入を防ぐためのフードディフェンスについて、具体的にどのような取り組みを行えば良いのかについて解説します。ここでは、日本食品衛生協会が公表している「食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)」を参考に、代表的な取り組みをご紹介します。
フードディフェンスでは、意図的な異物混入を防止するため、以下の4つの取り組みが重要とされています。
フードディフェンスにおいて重要になるのが、人の動きの管理で、特に、部外者が食品工場に立ち入る時の対策です。食品防御対策ガイドラインでは、以下のような対策を行うべきとしています。
フードディフェンスでは、以上のように人の動きを管理することで、食品への異物混入を防ぐことが重要とされています。
フードディフェンスでは、従業員など、対内的な人も注意すべきポイントに含まれています。普段から、業務に携わる従業員は食品に最も近い位置にいます。これに対するフードディフェンスは極めて重要になります。具体的な対策としては、以下のようなポイントがあげられています。
内部に向けたフードディフェンスでは、人の管理や配置が重要です。したがって、製造エリアへの入退室の際にIDカードなどを使い、従業員の行動を把握・管理することにより、製造エリア内に私物を持ち込むことを制限することが、フードディフェンスとして有効な対策です。
フードディフェンスでは、不審者が施設に立ち入ることを防ぐ仕組みづくりが重要です。例えば、24時間常駐の警備体制を敷いたり、防犯カメラ・監視カメラを設置することで、抑止力を働かせるといった対策が有効です。他にも、以下のような対策を検討しましょう。
フードディフェンスを実践するには、それに適した組織を作ることが重要とされています。フードディフェンスは、個人単位で行うものではなく、組織全体で行わなければならないものですので、それができるような教育を行い、管理体制を構築することが非常に重要です。会社全体でフードディフェンスに取り組むことができるようになれば、異物混入事故が起きた場合でも、素早く対処することができ、消費者への被害を未然に防ぐことができるでしょう。
食品防御対策ガイドラインでは、組織マネジメントについて、以下のような対策が必要としています。
今回は、食の安全を確保するための重要な取り組みであるフードディフェンスについて解説しました。「食の安全を守る取り組み」と聞くと、HACCPをイメージする方が多いですが、フードディフェンスは、HACCPを補完するための取り組みとして、日本国内の食品関連事業者の間で注目度が高くなっています。
HACCPとの違いに関しては、同じ異物混入を防止するための対策をとる場合でも、その要因に「意図している人」を想定して対策をとるか否かという部分になります。HACCPによる衛生管理は、あくまでも偶発的な『事故』を防止するための衛生管理手法で、悪意のある人が異物や有害物質を食品に混入しようとした場合までは、防ぐことができません。
フードディフェンスは、このような悪意がある人の手による異物混入から食品の安全を守るための取り組みです。過去には、日本国内の冷凍食品工場にて、製造品に農薬が混入し大規模な自主回収となる事件が発生しています。そしてこの事件は、従業員の内部犯行によるもので、意図的に食品へ有害物質が混入された「食品テロ」とも呼べる事件であったことが分かっています。
つまり、食品の安全を守るためには、偶発的な事故の対策を行うだけでなく、人による意図的な異物や有害物質の混入も防がなければいけないため、フードディフェンスの取り組みも重要です。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。