食品
投稿日:2023.12.07
更新日:2024.01.05
人が口にする食品を取り扱う業界では、非常に厳しい衛生管理が求められます。食品や原材料はそれぞれ最適な保管温度帯が異なり、これを正しく管理しないと、食中毒などの食品事故に発展するリスクが高くなります。
2023年11月にも、イベント会場で販売された焼き菓子を食べたことによって複数の客が腹痛や嘔吐(おうと)の症状を訴えた事件がありました。保健所の検査では食中毒の原因となる細菌は検出されなかったそうですが、多くの専門家が体調不良の要因は焼き菓子の「保管温度」や「保存期間」が不適切だったと指摘しています。
そこで当記事では、食品を取り扱う事業者様が、絶対におさえておかなければならない食品の適正な管理温度帯を守るためのポイントを解説します。
Contents
それではまず、過去に発生した食品事故について、何が原因となって食品事故に発展したのかを紹介します。
一つ目の食品事故事例は、冒頭でも触れた、イベント会場で販売された焼き菓子による食中毒事故です。この食中毒事故が発生した際には、SNS上で大きな話題になったこともあり、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか?
この事故については、当初、販売した菓子店が「防腐剤、添加物不使用」「市販の焼き菓子の半分以下の砂糖の量」を売りにして人気店になっていたことから、砂糖や防腐剤が使用されていなかった(もしくは少ない)ことが原因なのではないかと騒がれていました。しかし、顧客とのやり取りが表に出てくるうちに、店が自ら「5日間ずっと製造しないと間に合わない」「保管場所は18°C以下を保っておりましたが、外気温が高かったため何個か傷んでしまった可能性がございます」と言った説明をしたことから、「温度」と「保存期間」に食中毒の原因があると指摘されるようになっています。
そもそも、食中毒菌は、添加物や砂糖が防腐目的に使用されていたとしても、増殖条件を満たした条件下にあると、増殖するとされています。つまり、この食品事故は、店側の「食中毒に関する知識」が少なかったことが要因と考えられるのではないでしょうか。
2023年9月には、老舗駅弁メーカーが販売した弁当による食中毒事故が発生しています。この食品事故では、弁当を食べて食中毒と断定された人が、29都道府県で554人に達すると発表されており、大規模な食品事故にまで発展しています。この食品事故では、弁当から黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型)とセレウス菌(エンテロトキシン産生)が検出されたそうですが、その原因は、以下のような製造時の温度管理の間違いや衛生管理の不徹底があったとされています。
推定される主な原因
【製造施設内】
〇委託製造した米飯について、検収手順及び受入れ基準を定めていなかったことから、注文時の指示書より高い温度の米飯を受け入れ、米飯冷却までに原因菌が増殖した可能性がある。
〇委託製造した米飯が配送された外箱(発砲スチロール製)について、殺菌等の措置をせずに、盛り付け室に搬入したことから、米飯、具材等に原因菌が付着した可能性がある。
〇自社炊飯分の米飯冷却に加え、予定にない、委託製造した米飯の移し替えや冷却が同時に行われたが、その製造記録が残されておらず、手指の消毒、手袋交換等のタイミングや方法が適切に行われず、原因菌が付着した可能性がある。
〇臨時従業員に対して衛生教育や体調・手指の傷等健康状態の確認を行ったが、これらの記録が残されておらず、通常当該施設で実施されている衛生的な取扱いや健康管理が徹底されず、原因菌が付着した可能性がある。
引用:八戸市資料より
これは少し古い事例ですが、国内大手乳製品メーカーが引き起こした食品事故です。この食品事故は、日本有数の大手メーカーが食中毒事故を発生させたという衝撃もありましたが、13,420人に及んだ被害者の多さも話題になりました。
この事故は、停電により冷却装置が停止して脱脂乳中で黄色ブドウ球菌が増殖してしまい、毒素を発生させたことが要因とされています。つまり、停電時でも、冷却装置の機能を維持できるバックアップ設備が整えられていれば、防げた事故と考えられるでしょう。
食品を良好な状態に保つためには、正しい保管温度を守る必要があります。原材料・製品の保存温度の目安は、改正『大量調理施設衛生管理マニュアル』(厚生労働省)で規定されています。
以下に、大量調理施設衛生管理マニュアルが定めている原材料、製品等の保存温度をご紹介します。
穀類加工品(小麦粉、デンプン)・・・室温
砂糖・・・室温
食肉製品・・・10℃以下
細切した食肉・鯨肉を凍結したものを容器包装に入れたもの・・・-15℃以下
冷凍食肉製品・・・-15℃以下
冷凍食品・・・-15℃以下
魚肉ソーセージ、魚肉ハム及び特殊包装かまぼこ・・・10℃以下
冷凍魚肉ねり製品・・・-15℃以下
液状油脂・・・室温
固形油脂(ラード、マーガリン、ショートニング、カカオ脂)・・・10℃以下
殻付卵・・・10℃以下
液卵・・・8℃以下
凍結卵・・・-18℃以下
乾燥卵・・・室温
ナッツ類・・・15℃以下
チョコレート・・・15℃以下
生鮮果実・野菜・・・10℃前後
生鮮魚介類(生食用鮮魚介類を含む)・・・5℃以下
乳・濃縮乳・・・10℃以下
脱脂乳・・・10℃以下
クリーム・・・10℃以下
バター・・・15℃以下
チーズ・・・15℃以下
練乳・・・15℃以下
清涼飲料水 室温
適切な保管温度帯を逸脱することにより、食品事故を起こさないためのいくつかのポイントを解説します。
食品を取り扱う施設では、どのような施設でも温度管理のための設備が整えられているはずです。しかし、「温度管理のための設備が導入されている」ということだけでは、食品の適正な保管温度帯を守ることができません。例えば、先ほどご紹介したマフィンによる食中毒事故では、空調設備により18℃以下の環境下に置こうとしたしたものの、「イベント当日の気温が高く、それ以上の保管温度帯になってしまっていた」と店側が言っているように、予期せぬ事態で保管温度帯を逸脱するケースも考えられます。
食品の適正な保管温度帯を守るためには、以下のような対策も検討しましょう。
さまざまな原因から食中毒を発生させないために、こちらの記事もご覧ください。
今回は、食中毒などの食品事故を防ぐため、食品を取り扱う施設がおさえておきたい食品の温度管理をするためのポイントを解説しました。
日本では、食品衛生法の改正によりHACCPによる衛生管理が義務化され、食品の安全性はより高くなっていくのではないかと考えられていました。しかし、衛生管理のためのシステムや手順がいくら進化しようと、それを使う人が正しい知識のもとその技術を使わなければ食品事故を防ぐことは難しいです。
食中毒などの食品事故を防ぐためには、食中毒に対して正しい知識を持つことが非常に大切です。特に、食品の保管温度は、食品衛生管理上、最も重要と言える部分でもありますので、正しい知識を持つ努力を欠かさないようにしましょう。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。