革新/改善
投稿日:2023.11.27
地球規模での環境問題の深刻化が叫ばれる中、世界中で環境問題に対するさまざまな取り組みが行われるようになっています。日本国内でも「SDGs」という言葉を頻繁に耳にする機会が増えている中、SDGsとも深い関係性がある取り組みとして注目されているものが「サーキュラー・エコノミー(circular economy)」です。
サーキュラー・エコノミーは、日本語では「循環経済」と訳される経済のあり方で、経済産業省が作成した資料の中では以下のように解説されています。
循環経済とは、従来の「大量生産・大量消費・大量廃棄」のリニアな経済(線形経済)に代わる、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済を指す。
引用:経済産業省資料より
サーキュラー・エコノミーを分かりやすく説明すると、各企業が経済活動の中で廃棄物を出さずに資源を循環させていく経済システムを指しています。つまり、企業がサーキュラー・エコノミーに取り組むことで、従来の経済活動では廃棄していたものを収益化することができるだけでなく、さまざまな環境問題の解決に寄与し、持続可能な社会づくりに貢献できる取り組みとして注目されています。
そこで当記事では、サーキュラー・エコノミーの概要と食品業界で実際に行われている取り組みをご紹介します。
Contents
それではまず、サーキュラー・エコノミーの概要と従来型の「リニアエコノミー」との違いを簡単に解説します。先ほどご紹介したように、サーキュラー・エコノミーは、日本語で「循環経済」と訳される経済のあり方で、具体的な経済活動の過程は以下のイラストのようになっています。
引用:経済産業省資料より
サーキュラー・エコノミーは、従来は廃棄対象とされていたモノを「資源」として活用する仕組みです。食品業界に置き換えると、廃棄予定もしくは廃棄された食品を他のモノとして活用する取り組みです。例えば、セントラルキッチンで生じる食品廃棄物を活用して堆肥として再利用する、ペットボトルなどの容器を資源として抽出し、リサイクル・再利用できるように設計してから製品を製造して、さらに製品として消費された後も廃棄物とならないようにしていくといった取り組みです。
これまでは、廃棄製品として消費されていた製品を資源として再利用しながら経済活動を進めるという流れから「循環型経済(サーキュラー・エコノミー)」と呼ばれているわけです。
従来型の経済システムは「リニアエコノミー」と呼ばれています。リニアエコノミーは、日本語に訳すと「直線型(線型)経済」となり、短期的により多くの利益を獲得するために大量生産・大量消費・大量廃棄が前提となった一方通行の経済活動を指しています。上述したサーキュラーエコノミーとの違いについては、環境省のHPに掲載されている下の図で分かりやすく説明されています。
引用:環境省公式サイト
上図から分かるように、リニアエコノミーでは、製造された製品が利用(消費)された後は廃棄されることが前提となっています。リサイクル・再利用の過程がないため、この経済活動をすすめた先には、大量の廃棄物が生み出されることになり、以下のような深刻な問題が発生すると考えられます。
従来型のリニアエコノミーは、健全な物質循環を阻害するほか、気候変動問題、天然資源の枯渇、大規模な資源採取による生物多様性の破壊など、さまざまな環境問題に密接に関係すると考えられ、「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」への移行が世界規模で急がれています。
食品ロスの抑制や食品廃棄物の削減など、さまざまな課題を抱える食品業界では、サーキュラー・エコノミーの取り組みが注目されています。それでは、サーキュラー・エコノミーが解決できると期待されている、食品業界が抱える課題とはどのようなものがあるのかも簡単に解説します。
近年、TVや新聞などの大手メディアでもフードロス問題が盛んに取り上げられています。世界では、年間約13億トンもの食料が廃棄されており、日本国内だけに限っても、2020年の国内食品廃棄物などは約2,550万トンもあったとされています。
これほどまでのフードロスが生じるのにはさまざまな要因が考えられます。例えば、日本国内のフードロスは、食品流通における「3分の1ルール」と呼ばれる商習慣が大きな要因になっていると言われています。「3分の1ルール」の詳細については省きますが、このルールが存在することで日本では「まだ食べることができる食品」が大量に廃棄されていると言われています。
このフードロス問題は、単に食品がもったいないという問題だけでなく、廃棄食品を焼却処分する際に温室効果ガスを出すなど、地球規模の環境問題にもかかわってきます。さらに近年では、自治体などのゴミ埋め立て処分場のキャパシティが限界に近づいている、自治体が負担するごみ処理費用が上昇傾向にあるなどの問題が指摘されています。
サーキュラー・エコノミーでは、今まで廃棄されていた食品を堆肥などとして活用することができるため、温室効果ガスの排出量削減を始めとして、企業の廃棄物処理コストの削減が期待できます。
参照:農林水産省資料より
近年では、プラスチックゴミによる海洋汚染問題が世界中で問題視されています。日本でも、2020年7月からレジ袋の有料化がスタートするなど、脱プラスチックの動きが加速しています。
現在、世界中で生産されるプラスチックは約4億トンにのぼるとされているのですが、そのうち1/3程度を食品などの包装容器が占めていると言われています。そのため、環境保護の観点から、プラスチック包装を無くそうという動きが高まっているのですが、食品業界においてはなかなか脱プラスチックが進んでいかない…というのが現状です。
食品のプラスチック包装は、ニオイを遮断することができる、酸化の防止ができるなどという利点がありますし、軽量かつ安価な包装容器であることから、なかなか満足できる代替品が見つからないという問題があります。
サーキュラー・エコノミーは、従来は廃棄していたペットボトルをリサイクル・再利用できるように設計してから新たな製品を製造し、製品として消費された後も廃棄物とならないようにしていく取り組みです。したがって、食品業界でのサーキュラー・エコノミーへの取り組みは、廃棄プラスチック問題の解決になると期待できます。
関連:食品業界でさらに広がる脱プラスチック!各社の事例を紹介
それでは最後に、食品業界で実際に行われているサーキュラー・エコノミーの取り組み事例をいくつかご紹介します。
これは、大手ファミレスチェーン店のセントラルキッチンで生じる食品廃棄物を堆肥化し、新たな農作物の育成に使用するという食品ループを実現した事例です。
引用:食品廃棄物を活用したサーキュラーエコノミーの取り組みを飲食チェーン「梅の花」で開始より
①セントラルキッチンで出た食品廃棄物を回収
②専用機械を使用して食品廃棄物を分解処理
③処理後の生成物を堆肥化
④生成された堆肥を利用して農作物を生産
⑥農作物を利用
飲料メーカーの日本コカ・コーラは、「2025年までに全てのPETボトル製品にサスティナブル素材を使用し、2030年までに全てのPETボトルを100%サスティナブル素材に切り替える」という目標を公表しています。
既に、2021年には国内で販売する5ブランドについて「100%リサイクルPETボトル化」の実現やコカ・コーラの軽量化などにより「プラスチック使用量約36%削減」を実施しています。日本コカ・コーラ社では、これらの取り組みにより、年間約26,000トンの温室効果ガス排出量削減と、約29,000トンのプラスチック削減ができるとしています。
参照:廃棄物ゼロ社会の実現に向けて:コカ・コーラシステムが取り組むプラスチックの資源循環
スターバックスジャパンでは、抽出済みのコーヒー(豆かす)を堆肥にする取り組みを行っています。同社では、その堆肥で育った野菜などを、サンドイッチやケーキの原料として利用しています。スターバックス各店舗で生じる食品廃棄物については、約7割を豆かすが占めているとされており、2021年6月時点でリサイクル率は23%に達したとのことです。ただ、今後もこの取り組みを拡大し、2024年にはリサイクル率を50%に引き上げる目標を掲げています。
この他にも、スターバックスジャパンでは、不用タンブラーを新製品にするリサイクル活動も行っています。
今回は、サーキュラー・エコノミーについて紹介しました。
サーキュラー・エコノミーは、各企業が経済活動の中で廃棄物を出さずに資源を循環させていく経済システムを指します。今まではゴミとして廃棄していたものが、新たな製品の製造に活用できるようになれば、企業にとってさまざまな面でのコストダウンが実現できるかもしれません。もちろん、企業が経済活動をすすめていく上では、「廃棄物を出さないこと」と「利益を生み出すこと」の2つを両立することは簡単なことではありません。
しかし、さまざまな環境問題が深刻化する現在では、こうした企業の環境に対する配慮が必要不可欠だと言えるでしょう。サーキュラー・エコノミーの実践は、環境問題解決に一役買えるだけでなく、廃棄物削減によるコストダウンや新たな収益源の確保など、さまざまなメリットも期待できるはずです。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。