食品
投稿日:2024.08.29
2024年元旦に発生した能登半島地震は、工場や倉庫を運営する経営層にとって、自社のBCP(事業継続計画)対策の重要性を見直すきっかけとなりました。実際に、帝国データバンクが行った「能登半島地震の影響と防災に関する企業アンケート」では、多くの企業が事業継続計画(BCP)自体の策定・見直しが必要と感じたと答えています。
引用:帝国データバンク資料より
日本では、今後も南海トラフ地震や首都直下地震など、能登半島地震に匹敵する巨大地震の発生リスクが高くなっていると予想されています。そこで、食品工場のBCP対策について、あらためて「企業防災」として重要度がさらに高まっている建物の耐震性を中心に解説します。
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それではまず、2011年の東日本大震災をきっかけとして、日本国内でもその注目度が一気に高くなったBCP対策について、改めて解説します。
BCPとは、「Business Continuity Plan」の頭文字をとった略語で、日本語に訳すと「事業継続計画」となります。日本では、2005年に内閣府により「事業継続ガイドライン」の初版が策定され、その後何度か改訂版が発表されています。2013年には、東日本大震災の教訓を反映した第三版が発表され、最新版は2023年に発表されています。なお、BCP(事業継続計画)の定義は以下のように解説されています。
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
引用:中小企業庁
日本は、地震や台風、豪雨による水害など、諸外国と比較しても自然災害の発生件数が多いことで知られています。さらに、皆さんの記憶にも新しい新型コロナウイルス問題は、2020年以降、世界中で流行し、経済的な活動に大きな制約をもたらしました。島国である日本は、これらの予期せぬ緊急事態がいつでも起こり得る国であるため、災害などによる緊急事態が発生した場合でも、企業が重要な業務を継続できるように、また、万一業務が停止した場合は迅速に回復できるようにするため、事前に準備すべき活動や緊急時の対応策を策定しておくことがBCP(事業継続計画)対策と呼ばれています。
特に食品工場などの食品製造業界は、地震や洪水などの水害、感染症の拡大などが事業に甚大な影響を及ぼす可能性があります。製造の拠点である食品工場が災害により損傷した場合、事業そのものを停止せざるを得なくなる事態も考えられ、企業にとっては重大な損害となり得ます。大企業であれば、製造拠点を分散させることで災害リスクの分散を図ることも可能ですが、中小企業の場合はそれも難しく、製造拠点の損傷による事業停止は、企業経営に致命的な影響を与える可能性が高いです。
そのため、新型コロナウイルスなどの感染症はもちろん、さまざまな自然災害リスクに備えたBCPの策定が、非常に重要です。
ここでは、今後発生が予想されている南海トラフ地震など、巨大地震に備えるため、2024年1月に発生した能登半島地震で注目すべきポイントをいくつかご紹介します。
能登半島地震では、ハザードマップで液状化の危険地域と指定されていない地域でも、液状化に見舞われたことが注目されています。液状化の可能性が高いと指摘されていた地域では、実際に液状化が確認されましたが、ハザードマップの色の境目に位置するエリアでも大きな被害が生じたという報道が散見されています。
このことから、現行の液状化ハザードマップの精度に対する疑問が指摘されています。
詳細かつ正確な情報は、今後の調査が待たれるという状況ですが、能登半島地震では、新耐震基準導入後に建てられたと考えられる建築物も倒壊していることが確認されています。日本国内で建てられる建築物は、建築基準法により定められた耐震基準を満たす必要があり、この基準は一定の強さの地震に耐えられることを前提としています。
建築基準法は「生きた法律」ともいわれ、大規模地震が発生するたびに損傷を受けた建物を検証し、耐震基準が改正されています。そして現在の耐震基準は、1978年の宮城県沖地震で多くの建物が損傷したことをきっかけに、1981年に「震度6強~7程度の揺れでも家屋が倒壊・崩壊しないこと」を目標に改訂されました。
その後も、阪神・淡路大震災(1995年)などの大きな地震が発生するたびに見直しが行われていますが、1981年以降に建てられた建物が全て同じ堅牢性を持っているわけではありません。実際、今回の能登半島地震では、新耐震基準を基に建てられた建築物にも倒壊被害が確認されています。
緊急輸送道路とは、以下のような道路を指しています。
災害直後から、避難・救助をはじめ、物資供給等の応急活動のために、緊急車両の通行を確保すべき重要な路線で、高速自動車国道や一般国道及びこれらを連絡する基幹的な道路。
引用:国土交通省
能登半島地震では、主要道路の多くが寸断されましたが、その中には「緊急輸送道路」も多く含まれていました。実際に、能登半島の大動脈と言われている国道249号が土砂崩れや道路陥没などにより寸断され、これにより支援物資を届けることが難しかったという報道を見かけた人は多いはずです。さらに、国道249号の寸断は、インフラ復旧にも大きな影響を与えました。電力の普及には、損壊した電柱まで作業員を派遣して復旧作業が必要ですが、道路の寸断により作業者の立ち入りが困難になり、復旧に時間がかかったのです。
食品工場などの製造施設は、事業の継続や復旧に電力を欠かすことはできません。しかし、能登半島地震のような大規模地震が発生した際には、大動脈と呼ばれるような大きな道路が寸断される可能性があるため、万一の際の電力確保が今後さらに重要視されます。
それでは、能登半島地震を経験した今、食品工場など製造を担う企業のBCP対策はどのような点を見直す必要があるのでしょうか?一般的に、製造業のBCPを策定する場合には、以下の点に着目すべきとされています。
それぞれのポイントについての詳細は、「工場に必要なBCP対策とは?どこから手を付けるべきか」という記事で紹介しています。
上記に加え、食品を製造する工場では、加工前の食品や、製造した食品を一時的に保管する必要があるため、保管庫の適切な温度管理は最重要と言えます。温度を維持するための冷蔵・冷凍倉庫や空調を機能させるためにはエネルギーが必須になるため、太陽光発電などの自家発電設備と蓄電システムの導入なども検討すべきです。自家発電設備が整っていれば、非常時に電力会社からの電力供給が停止しても、最低限の生産性を維持することができます。また、製造拠点をある程度離れた位置で複数に分けることも重要です。
しかし、上述した能登半島地震での実際の被害状況を考えた場合には、建物そのものの耐震性に目を向けなければならないことを改めて実感したという方も多いのではないでしょうか。食品工場を建設する際には、ハザードマップを確認し、浸水や液状化などのリスクが少ない立地を選び、建築基準法に基づいて建物を建てていることでしょう。しかし、能登半島地震では、ハザードマップでは警告されていない多くの場所で液状化が発生し、新耐震基準を基に建てられた建物の倒壊が多く発生しているという事実があります。
つまり、これから南海トラフ地震や首都直下地震など、能登半島地震に匹敵する規模の大地震が予想されている日本では、BCP対策として建物の耐震診断を行ったうえで、必要とされる耐震補強を継続して行っていくことが大切になると言えます。建築基準法は、生きた法律と言われるように、耐震に関する法改正が定期的に実施されているため、その都度、自社の工場が対応できているのかも継続的に診断するようにしましょう。
今回は食品工場に求められるBCP対策について、特に能登半島地震のような大規模地震の発生を考え見直すべきポイントを解説しました。
2024年の元旦に発生した能登半島地震では、現行の新耐震基準を基に建てられた建築物にも、非常に甚大な被害が生じています。もちろん、能登半島一帯では、4年ほど前から小規模な地震が頻発しており、さらに昨年5月に最大震度6強の地震が発生したこともあり、もともと建物の強度が低下していた可能性があり、耐震基準そのものに問題があるのではないかという指摘もあります。しかし、小規模な地震でダメージを受け、大規模地震で一気に倒壊するかもしれないという状況は、地震の発生件数が非常に多い日本で考えると、全ての建物に当てはまる可能性があります。
今後、日本では南海トラフ地震や首都直下地震など、能登半島地震に匹敵する規模の地震が起きると予想されています。したがって、食品工場のBCP対策では、いつ・どこで発生するか分からない地震に対しても、しっかり対策を講じることが重要です。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。