革新/改善
投稿日:2021.03.28
更新日:2022.09.26
諸外国と比較すると、大規模地震が多い日本では、防災意識が高い傾向にあると言われています。特に近年では、台風の大型化や集中豪雨による水害などが増加傾向にあるため、BCPや防災などへの注目度が年々高くなっていると言われています。
しかし、BCPと防災は混同されて考えられていることが多いため、この二つが具体的にどう違うのかよくわからないという方も少なくないのではないでしょうか。そこでこの記事では、多くの企業で採用されるようになってきたBCPと防災の違いについてご紹介します。
それではまず、BCPと防災について、それぞれの目的や特徴などを簡単にご紹介しておきます。
それではまず、BCPの基礎知識からご紹介していきましょう。BCPは、「Business Continuity Plan」を略したもので、日本語に直訳すると事業継続計画となります。その目的については、内閣府の事業継続ガイドラインで以下のように解説されています。
大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画のことを事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)と呼ぶ。 引用:内閣府「事業継続ガイドライン」
もう少し噛み砕いて説明すると、大規模地震などの自然災害や新型コロナウイルスのような感染症の蔓延などのトラブルが発生した場合でも、企業の被害を最小限に留め、事業の継続や早期復旧を測るための計画のことが『BCP』です。例えば、BCPの導入がないまま大規模災害が発生してしまった場合、事業を継続することができなくなることで顧客からの信頼が低下してしまうことになります。さらに、何らかの被害が生じていたとしても適切な判断を下すことができず被害が拡大してしまう可能性が非常に高くなります。
BCPは、万一のトラブル発生時でも冷静な対処を可能とし、企業を存続させることが目的となります。
次は防災についてです。言葉だけで見ると「災いを防ぐ」ことと受け取れますが、一般的にはもう少し広い意味で捉えられています。災害対策基本法では、「国土並びに国民の生命、身体及び財産を災害から保護するため」を目的としており、「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ること」を防災の定義としています。
防災に関しては、防災訓練などにより、BCPよりも一般生活に定着しているものと考えられます。基本的には、人命の安全や建物などの財産を保全することを目的としたものが『防災』と考えておきましょう。
それでは、BCPと防災の違いについて詳しくみていきましょう。前項の説明から分かるように、防災は「人の安全と財産を守る」ことが目的であり、BCPは「会社を存続させる」ことが目的となるものです。企業組織の面から考えても、防災は総務部が主体となって行う活動となるのですが、BCPに関しては経営者も参画して全部門を巻き込んでの活動となるという違いもあります。 以下で、「BCPと防災の違い」を分かりやすくするため、表にまとめておきます。
防災 | 事業継続(BCP) | |
---|---|---|
目的 | 身体の安全と財産を守ること | 企業を存続させること |
対象 | 拠点が存在する地域で発生することが想定される災害 | 事業に影響を及ぼすあらゆる脅威 |
適用単位 | 拠点単位 | 事業単位~顧客や調達先などサプライチェーン全体 |
視点 | ・人命の安全確保 ・物的被害の軽減 ・拠点レベルでの対策・対応 ・主に安全関連部門・施設部門の取組 |
・従来の防災の考え方に加え以下の新しい視点をプラス ・重要業務(商品・サービスの供給)の継続・早期復旧<経営の観点> ・サプライチェーンでの対策・対応 |
指標 | 死傷者数、物的損害額 | ・復旧時間・復旧レベル ・経営ならびにステークホルダーに及ぼす影響 |
もともと自然災害の多い日本では、災害に備えて被害軽減策を講ずること(具体的には人命の安全確保、物的被害軽減など)に重点が置かれていました。日本の企業でも古くから防災への取り組みは進められており、BCPは防災計画とは異なるものの、「従来から行っている防災と特に違いはないように思える」などという意見も少なくないようです。
しかしBCPは、「被災に際して重要な事業が存続できるよう取り組む」という新たな視点がプラスされています。内閣府のサイトでは、具体的な取組として以下のような例が挙げられています。
・経営全体の観点から重要業務を選択し、復旧する事業所や設備についてメリハリをつける。
・被災後に活用できる限られた資源の有効な投入策を計画する。
・市場から許容される重要業務の停止期間に着目し、目標復旧時間を定める。
・サプライチェーンに着目し、取引関係のある主体の被災状況や、その主体への自社の業務停止の影響もあわせて評価する。 引用:内閣府「防災情報のページ」より
BCPと防災は重複する内容も少なく無いことから、両者を混同して考える方も多いです。しかし、緊急時の事業継続を確実にするためには、防災という観点だけでは不十分であると覚えておきましょう。
それでは最後に、今回の新型コロナウイルス問題を踏まえ、食品製造業におけるBCPについて少し触れておきましょう。
私たちの社会生活を一変させたと言っても良い新型コロナウイルスですが、食品製造業界は、「国民への食料の安定供給」という非常に重要な役割を担っていることから、コロナ禍の中でも事業活動を止められない業種です。したがって、従業員やその家族の安全を守りながら事業を継続していくためのBCPへの取り組みが大切だと考えられています。
特に今回の新型コロナウイルス問題では、サプライチェーンの中で、原材料、マスク、手袋、消毒薬の衛生資材に不足が生じてしまったことから、製造体制を維持する上において、一部では支障が生じたと言われています。
食品製造業界では、「一部商品の休売を実施し、需要の高い商品を増産する」「人員の応援や三交代制、休日出勤などによって、人員を確保し、需要の高い商品を増産」などと言った対応策がとられています。しかし、今回のような感染症問題に直面し、策定済みの事業継続計画(BCP)に見直しが必要と考える企業が多いようです。例えば、一斉休校などがあると、子供を持つ従業員の出勤が難しくなり、人員の確保が困難…、従業員の中に感染者が出た場合はどうするのか…などと言ったことが今後の課題として捉えられています。
なお、農林水産省から、食品産業事業者に新型コロナウイルス感染者が発生した時の対応及び事業継続に関する基本的なガイドラインが公表されていますので、ぜひ確認しておきましょう。
参考:食品産業事業者に新型コロナウイルス感染者が発生した時の対応及び事業継続に関する基本的なガイドライン 参照資料:新型コロナウイルス感染症禍における食品事業者の取組
今回は、混同されがちなBCPと防災の違いについてご紹介してきました。この二つは、重複する項目が多いですし、防災計画を策定している企業の中には、わざわざBCPまで考える必要がないと思っている場合も少なくありません。しかし、この記事でご紹介したように、緊急時の事業継続を確実にするためには、防災という観点だけでは不十分です。
実際に、今回の新型コロナウイルス問題では、食品の製造体制を維持するうえで、一部に支障が出てしまったという報告もあるようです。特に感染症問題では、人との接触を減らすことが重要とされていることから、十分な人員の確保が難しくなることも考えられます。そこで、新型コロナウイルス問題を経験した食品製造業界では、中長期的な視点も踏まえ、必要に応じて、省人化や機械化に関しても検討していく必要があると考えられます。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。