建築
投稿日:2020.06.01
更新日:2022.09.26
日本国内では、全国に発令されていた緊急事態宣言がようやく全面解除となりましたが、世界的な新型コロナウイルスの終息は未だに見通しがつかない状況にあります。また、コロナウイルスは風邪や流行インフルエンザと同様に人類が未来永劫付き合っていかなければならない問題である様相が強くなってきています。
皆様も、ご自身や家族の安全を守るために普段以上に個人衛生管理について気を付けているのではないでしょうか?もともと諸外国と比較すれば、手洗いやうがいなど、個人個人の衛生観念が非常に高いと言われている日本人ですが、それでも新型コロナウィルスの感染拡大を完全に防ぐようなことはできなかったのです。それでは、今後この問題と付き合っていかなければいけない私たちは、何に気をつけて生きていけば良いのでしょうか?
この記事では、コロナが蔓延しても、していなくても常に徹底した衛生管理が求められている食品工場に注目して、目に見えないウィルスと戦うための対策について考えてみたいと思います。
皆さんは、新型コロナウイルス対策としてどのようなことを行っているでしょうか?テレビなどでも盛んに報道されている感染防止対策としては、「3密の防止」が非常に重要視されており、それに加えてマスクの着用や換気の徹底、小まめな手洗いの実践などが有効だと言われています。実際に、4月の初め頃には市場からマスクが消えてしまい、使い捨てマスクを洗いながら何度も使用している…といった人もいたほどです。
普段の生活を考えてみると、感染防止対策というものは、非常に窮屈に感じてしまう人も少なく無いのではないでしょうか?しかし、目に見えないウイルスを対象とした対策では、どれも非常に重要なことです。
それでは食品工場での衛生管理を考えてみましょう。食品工場では、食品という人の口に入る商品を製造している事から一般的に衛生管理が行われており、ウイルス性の菌の対策や食中毒への対策を常に徹底しているのです。もちろん、工場内で作業する従業員は、髪の毛一本にまで注意を払う必要がありますし、マスクの着用や徹底した手洗いは「当然のこと」とされています。さらに、設備面に関しても、陽圧管理、非接触、温度湿度コントロール、浮遊菌対策など、ありとあらゆる衛生管理項目が存在します。
これらの徹底した衛生管理は、食品業界では当たり前のことと捉えられてきましたが、今後は一般の建築物でもこれに近い対応が求められてくるのかもしれません。特に、来年度からはHACCPの義務化も控えており、社会全体で衛生度を上げる取組みが加速されていくと予想されています。
食品業界の徹底した衛生管理は、仕入れ先の要求事項という意味合いも多分にありましたが、これからは施設で働く従業員を守る取り組みとしても、作業環境のさらなる衛生度の向上が求められてくることでしょう。
上述のように、人が口にする食品を製造する食品工場では、さまざまな衛生管理対策が講じられています。しかし、食品などを取り扱うことが無い一般の工場や倉庫などであれば、従業員に対して細かく衛生管理に関する指摘をすることなどあまりないのではないでしょうか。また、食品工場のように、衛生管理を考慮した設備・設計など検討したこともない…という企業の方が多いかもしれません。
しかし、新型コロナウィルス問題の影響もあり、目に見えないウイルスまでをも対象にして、従業員の安全を考えた職場環境を作り出すことを検討する必要があります。
そこでここでは、目に見えるものから目に見えないウイルスまでをも対象とした衛生管理を行っている食品工場を参考に、ウイルス感染のリスクを回避するための具体的な衛生管理方法をいくつかご紹介しておきます。
食品工場では衛生度に分けた作業エリアの分類を行い、衛生度の高い部屋から低い部屋に空気の流れを持たせ、衛生度の高いエリアの空気清浄度を守る対策を行っています。これは現在、新型コロナウイルスの対策として求められている『換気の徹底』にも該当します。
一般建築で行う換気は、窓を開けて外気を取り込むという手法が多いのですが、これから夏場を迎えるにあたり、外気の換気では部屋の温度は外気と同等にしかならず、換気が十分に行われない結果に繋がってしまいます。食品工場の場合は、更に問題は深刻で窓を開けて作業するようなことは出来ません。何故なら外部から虫の侵入が発生し、それが異物混入に繋がるリスクもあるからです。
そのため、食品工場では、商品の品質を担保するために室内空間の環境を整え、単純な換気ではなく食品工場ならではの陽圧管理を考慮した換気システムを構築し、室内環境を守っています。陽圧管理で『換気の徹底』を行なうことは、コロナやインフルエンザなどの様な感染症リスクを下げることができると言われています。一般の建築でも、そういった病気から従業員を守るためにも、取り組みを徹底すべきなのではないでしょうか。
日本では昔から手洗いが重視されていますが、コロナ問題以降さらにその重要性が認識されるようになっています。職場での手洗いを考えてみれば、食品関連施設以外では、「小まめな手洗い」が求められるようなことはあまりありません。
食品工場で考えた場合、食の安心安全を目的として作業エリアに入室する際に手洗いを行い手指の殺菌を行なう『入室準備室』が存在します。さらに、コロナウイルスの影響もあり、今後は従業員の安心安全という観点に立ち、一般エリアにも手洗いの徹底を行える仕組みを取り入れる事があるのかもしれません。
最近では、一般の会社のエントランスにアルコール消毒を設置し対策を行っているという企業が増加していますが、今後はもっと効率よく『手洗いの徹底』ができる仕組みを整えることで、対外的にも対策を行っている企業としてのイメージアップと実際の感染症の対策に繋がるでしょう。
今回のコロナウイルスの影響で手洗いの大切さを皆さまも実感したことだと思いますので、今後の対策として検討を行なうことも必要になるかもしれません。
一般的な建物で考えた場合、部屋に入る際には扉を通過して入室する必要があります。コロナウイルスなどの目に見えないウイルスは、こういったドアノブに接触することから感染する恐れもあります。
徹底した衛生管理が求められる食品工場では、衛生度の高い部屋において菌の発生や混入を抑止するため、非接触での開閉を備えた扉を多く採用しています。接触感染の危険性が叫ばれているコロナウイルスなどの感染症対策としては、こういった非接触建具の導入が非常に有効な対策になると考えられます。
もちろん、こういった設備を導入するためにはコストがかりますので、手動建具や半自動建具の様に電動では無い建具とのバランスを考慮し設置を検討すると良いでしょう。
人が口にする食品を製造する施設である食品工場では、コロナウイルスの感染爆発が起こる以前から上記のように徹底した衛生管理を行っています。つまり、食品工場のこういった衛生管理への考え方というのは、一般の建築物と比較すると、はるかに『新型コロナウイルスの対策』ができた建築物と言えるのです。
冒頭でご紹介したように、新型コロナウイルスに関しては、「今だけ我慢すれば良い」というものではなく、人類が未来永劫付き合っていかなければならない問題である様相が強くなってきています。したがって、食品を取り扱っているかどうかなど関係なく、全ての建築物でより徹底した衛生管理が重要になるのではないでしょうか。
今回は、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス問題について、今後必要になってくると考えられる目に見えないウイルスを対象とした衛生管理に関して、食品工場を参考にどのような対策が有効になるのかをご紹介しました。
日本国内では、ようやく全国的な緊急事態宣言が解除され、これから新しい生活様式を目指すという段階に来ています。しかし、忘れてはいけないのは、新型コロナウイルスの問題は「今だけ注意すれば良い」というわけではなく、流行インフルエンザのように人類がコロナウイルスと共存を目指さなければならないということです。つまり、緊急事態宣言が解除されたからと言って、徹底した衛生管理の必要がなくなるというわけではないのです。
この記事でご紹介しているように、食品工場というものは、新型コロナウイルスの問題以前から、他の施設では考えられないぐらい厳しい衛生管理を徹底しています。それは、人が口にする製品を製造するという施設的な特徴があるためですが、今後は食品の取り扱いなど関係なく、多くの人間が同じ施設内で働く一般の工場や倉庫、学校やオフィスなどでも目に見えないウイルスを対象とした衛生管理が必要になると考えなければなりません。
皆様の働く工場や倉庫の対策や、すでに計画段階に入っている施工に関しても、今一度立ち止まって見直してみてはいかがでしょうか。その行動が、従業員やそのご家族の命を守る一手となるでしょう。
関連記事
食品工場への非接触センサー導入による食中毒対策
工場内を清潔に保つためには『清掃しやすい工場』を造ることが大切!
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。