食品
投稿日:2020.01.16
更新日:2024.10.29
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「HACCP」とは、食品製造における安全性を確保するための生産工程管理について定める手法の略称です。
微生物や異物の混入などが起こる要因を分析(HA=Hazard Analysis)したうえで、危害の防止につながる特に重要な工程(CCP=Critical Control Point)を継続的に監視・記録するという、英語の頭文字を取って命名されています。
原材料の受け入れから最終製品までの工程ごとに、食中毒や異物混入など、食の安全・安心を脅かすリスクを防止するために継続的に工程を監視し、管理するためのシステム構築を指します。
従来の食品製造の現場では、無作為な抜取検査という品質管理の手法を採ってきました。しかしながらこのような検査方法では、抜き取られなかった食品に異物などが入り込む恐れがあります。その結果、莫大な費用と信頼性が失われることがありました。
HACCP導入に至った背景の一つとして近年、大手食品メーカーが食品製造機械の破損した金属片が入り込んだかもしれないと、何万点、何十万点もの商品を回収している事例があります。
こうした食品ロスや費用発生を防ぐためにも常に監視を行い、異常が発生することや問題が生じた製品の出荷を未然に防止することが求められます。
食品の製造や調理のプロセスで、食品の安全を損なうリスクがある微生物(生物的危害要因)や異物(物理的危害要因・化学的危害要因)にどのようなものがあるかを明確化します。
明確化した危害の中でも、特に食中毒など人体に影響を及ぼす極めて重要となる管理点を決定します。
管理点ごとに守るべき基準、たとえば、殺菌温度や加熱時間などを定めなければなりません。
そのうえで、基準がしっかりと順守されているか否かを、どのようにしてモニタリングするのか、万が一、基準から外れてしまった際にどう対策を打てばいいのかを事前に取り決めます。
プロセスごとに求められる作業は、標準作業手順書として文書化しなければなりません。その文書も、誰が作業してもその通りに実施できるわかりやすいマニュアルであることが求められます。
モニタリングの結果は逐次記録して保管することで、HACCPに基づく管理がなされていることが証明できます。
また、これから建設予定の食品工場においても上記のルールをしっかりと取り入れた設計図を基に工事を行うことが最終的な費用節減につながると言えます。
1993年に世界的な保健衛生機関であるFAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)において食品の安全性を確保するシステムとして国際的に推奨され、HACCPの具体的な7原則と12手順が示されました。
これを受け、ようやく日本においても2016年12月に公表された厚生労働省の食品衛生管理の国際標準化に関する検討会において、より実効性のある一般衛生管理の仕組みの構築とともに、HACCPによる衛生管理の手法を導入し、日本で作られた食品の安全性のさらなる向上を図ることが提唱されました。
そして、フードチェーンを構成する食品の製造・加工、調理、販売等を行うすべての食品等事業者を対象にHACCPの制度化を求めることになったのです。
制度化においては、コーデックスHACCPの 7原則を定めた基準Aを基本のルールとし、一方で、日本特有の事情を考慮し、小規模事業者や一定の業種等を対象により柔軟で弾力的な取り扱いを可能とする基準Bを設けることになりました。
日本の食品製造事業者の HACCPの導入率は2010年度の19%から2015年度に29%と伸びてはいますが、中小規模以下の事業者における導入率は低い割合にありました。
食品衛生法の改正とHACCPの制度化は厚生労働省の管轄ですが、HACCPの制度化を前に緊急にHACCPを普及させようと積極的に取り組みを始めたのが食品生産者などとのかかわりも深い農林水産省です。
農林水産省ではこれまでも、食品製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法(1998年法律第59号)に基づき、施設の整備を行うための金融支援やHACCP導入を担う人材の養成研修のサポートを行ってきました。
2018年の制度化公布に伴い、今後はさらに計画を立て、導入支援を積極的に行い、猶予期間と想定する2022年までにすべての事業者でHACCPの導入を完了すると目標を立てています。
2019年度では主要な食品・業種において業界団体による手引書が一つ以上整備されるよう推進するとしています。
また、未導入の事業者で国の支援を受けて実施する研修を受講した人の7 割が1年以内にHACCP導入に向けた行動を開始するよう働きかけや支援を行っていくとしています。
研修は特に基準Bに基づく中小事業者を重点に置き、指導者の養成研修も同時に実施していくことが掲げられました。
今後は作成された手引書に基づいた研修を重点的に行い、すべての食品製造事業者が少なくとも基準Bに基づいた衛生管理を実施できるレベルになることを目指します。
そのうえで、2021年に食品製造事業者全体のHACCP導入率が基準Bによるものも含めて8割になることを目標に、2022年にはHACCP制度化の完了期限とし、導入率100%達成を目指しています。
引用元:https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/haccp/kensyu/attach/pdf/kensyu-9.pdf
問題が生じた製品は一度出荷されれば、異常に気付き早期に商品回収をしたとしても、少なからず消費者の手に渡り、既に口にされてしまっているかもしれません。健康被害が出なかったから良かったではなく、未然に防止するための仕組みとしてHACCPの導入が求められています。その結果、食品のロスや不要な費用の発生を未然に防ぐことが出来ます。
しかし、HACCPの導入にあたっては専門知識が求められます。また、知識だけでは新たな制度を取り入れる際の最適な構造や動線を設計できない可能性も考えられます。
改修や建設を依頼する前に、HACCPに関する豊富な知識や経験がある企業かを確認し、相談することをおすすめします。
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この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。