建築
投稿日:2019.06.24
更新日:2024.05.07
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食品工場の設計において、最も優先すべきは『食の安全・安心』です。具体的には、「衛生」「異物混入」「鮮度管理」「交差汚染」などが該当します。『食の安全・安心』の視点を持って、それらの対策が即時実行できるように設計段階から盛り込んでいきます。
その中で意外と盲点になりやすいのが、食品工場という特殊性から発生する洗浄時の「湯気」への対応です。設計時、一般的には異物混入や交差汚染を防止する作業動線には着目されるものの、洗浄時の「湯気」は想定されず、設計上重要な観点としてはなかなかイメージされないのも事実です。
先ほども述べましたが、食品工場で最も気をつけなければならないのは、『食の安全・安心』です。食中毒などを発生させてしまった場合、工場だけでなく、工場を運営する企業全体で多大なる責任を追わなければならない時代です。
その食中毒菌が繁殖する三大要素は「栄養分」「水分」「温度」です。換気が十分ではなく湯気がこもりやすい環境にあれば、食中毒の発生要件である「水分」と「温度」が揃い、食中毒発生の危険度は非常に高まります。
ただし、この換気=空調に関しては、非常に難しい面があります。
設備の稼働状況や調理作業を行った際に発せられる熱負荷など、実際の作業に即した計画を考慮して設計を行わなければならないからです。ただし、その辺りは実際に工場を稼働させなければ分からない部分も多く、想定通りの作業状況に出来るのか難しい部分があります。
単純に考えて、コストをあまりかけずに空調対策を行う場合、「窓」を増設することが考えられるでしょう。
しかし現代の食品工場建設においては「窓を設ける」はリスクであります。
なぜなら、窓を開けて換気をする=外部からの異物(虫や小動物)の侵入の可能性が高まると考えられますので、そのような計画は絶対にしてはいけません。また、窓がある場合は結露となりカビ発生や劣化による虫の侵入、明かりが漏れることによる虫の誘因源にもつながります。また最近、食品工場で使用される塗床は紫外線に弱いため、窓を通じて差し込む外からの紫外線により、色の劣化等の性能を著しく低下させる原因にもなります。
その結果、近年、食品工場建設において外壁に接した窓は設置しないのが主流、むしろ常識となっています。
では、換気扇や空調機器を増設して、という考え方もあるかもしれませんが、その考え方では、過剰な設備投資となってしまい、コストがかさんでしまいます。
常時、湯気が発生するような労働環境であれば空調設備の投資は一つの選択肢となりますが、作業終了後、温水で清掃作業を行う場合で室温が低い場合は湯気が大量に発生し、壁面や天井に結露が発生します。そこで、設計上のコストを抑えるためには、これまでの清掃方法を変えるということも考える必要があります。
湯気の問題を踏まえて考えてみると、油を使う食品工場や食肉加工工場では洗浄方法に苦労されているかと思います。つまり、油汚れを落とす場合、油は高温に弱い(融解しやすい)性質があるので、温水で洗浄することが一般的な方法とされています。
しかし前述したように、温水を大々的に使えない場合、あるいは湯気がこもってしまう場合は「温水洗浄の場合は別室」、「温水洗浄ではなく、泡洗浄に切り替える」などの方法があります。実際に最近では、温水洗浄を止め、泡洗浄に切り替えている工場も多くなっています。
それにはいくつかの理由が挙げられます。
機器や什器類にまんべんなく泡を行き渡らせて、細かなところにまで化学の力で汚れを落としていきます。ただし、古い機器の場合、電気系統が防水加工されていないこともあるので注意をしたいところです。
一気に汚れを落とす洗浄方法というと、「高圧洗浄」が頭に浮かぶかと思います。しかし、食品工場での高圧洗浄は厳禁です。高圧が故に、さまざまなものを飛散させてしまいます。洗浄をかけた部分は一見、きれいになったと見えますが、床に落ちた食品(=食品残滓)などを目に見えないような場所、例えば什器類の奥に飛ばしてしまっている状態になっています。
食品残滓が工場内に残されたままになっていると、食中毒菌の繁殖三大要素が揃ってしまい、カビなどの細菌が発生したり、ゴキブリ、ハエ、あるいはネズミなども外部から侵入したりする可能性がありますので、しっかりと除去しなければなりません。
また、食品工場は床の劣化もしやすくなるので、高圧洗浄機での清掃は避けた方がよいでしょう。
空調以外にも気をつけたいのが、先ほど挙げました「床」です。 どこの食品工場でも、一日の締めくくりに床を必ず水を使って掃除すると思います。
ただし、その水分をしっかりと乾燥させないと、翌日になってもジメジメした環境となってしまい、衛生的には良好だとは言えません。そのため通常の作業開始時間の前に、準備を行う時間が必要になり効率的ではありません。食品工場の床は作業の関係上、高熱になりがちで膨張と収縮を繰り返しています。さらに、清掃時には洗浄液や消毒液なども使用するため、かなりハードな扱われ方をしています。
これらの要因で経年劣化によりクラック(ひび割れ)が発生しやすくなります。クラックが発生するとなかなか洗浄も行き渡らなくなったり、洗浄時の水分も乾燥しにくくなったりするでしょう。結果的に雑菌が溜まりやすくなって菌の温床となる可能性が高くなります。
そこで、床には働く人に負担がかからない程度のなだらかな勾配をつけたり、耐久性のある水系硬質ウレタン材を使用して水捌けをよくする、あるいは乾燥しやすい工夫を施します。
食品工場は本来の使われ方以外に、「清掃」や「衛生」という部分にも目を配りながら設計していかなければなりません。それを怠ってしまうと、再三申し上げている『食の安全・安心』は担保できず、リスクを背負った食品工場になってしまいます。
一言で設計と言っても、デザイン重視だけでは食品工場の要件を満たしているとは言い切れません。複雑な要件がさまざまに絡み合う食品工場の設計には、食品工場そのものを十分に熟知した経験と理解が必要となります。
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この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。