今回は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの中で、生き残りをかけた飲食店の新たな販売戦略について解説していきたいと思います。
2020年から続く新型コロナウイルス問題ですが、2022年の半分近くが経過した現在、ようやく新型コロナウイルス感染症問題の出口が見えてきたような状況になってきました。ただ、都市部などでは、まだまだ一日の新規感染者数が千人を超えるような日もあるなど、完全に以前の生活を取り戻せているとは言えない状況が続いています。
新型コロナウイルス感染症問題は、企業のテレワーク推進など、人々の社会生活に大きな変化をもたらせていますが、特に大きな影響を受けたのが飲食業界でしょう。新型コロナウイルスは、人との接触により感染が拡大してしまうという特性があったことから、日本国内でも緊急事態宣言が発出される事態になり、飲食店での客足が激減し店舗経営に深刻なダメージを与えています。実際に、2022年6月、帝国データバンクが公表した「新型コロナウイルス関連倒産」に関する調査データによると、業種別の倒産件数で飲食店が第一位になっています。(飲食店の倒産件数:552件)
このような状況の中、自らの生き残りをかけて、新たな販売戦略をスタートする飲食店が急増しています。そこでこの記事では、新型コロナ問題の中で急速に進んでいる飲食店の進化について解説します。
参照データ:帝国データバンク
Contents
無人販売のメリット
無人販売とは、スタッフがおらず、お客様ご自身で商品選びから会計まで済ませるサービスとなります。企業側にとって代表的なメリットは「人件費の削減」「24時間販売可能」となります。それぞれ解説していきます。
人件費の削減
■人件費の削減
前述したように、無人販売は、お客様が自身で商品・サービスを選び、会計を済ませるサービスなので、接客や会計を行う従業員が不要となります。そこで人件費の削減を実現でき、人手不足も解消できます。
24時間販売可能
無人販売ですので、24時間365日営業を実現できます。24時間販売によって、売上と販売チャンスの向上及び新客層の取り込みを実現できます。
無人販売のデメリット
ここでは企業側にとって代表的なデメリット「万引き・盗難のリスク」「初期投資が必要」について解説していきます。
万引き・盗難のリスクがある
従業員がいらっしゃらないため、万引きや盗難被害に遭いやすいです。そのため、無人販売をはじめる前にキャッシュレス決済の導入や防犯カメラの設置などセキュリティ対策を行う必要があります。
初期投資が必要
前述したように、万引きや盗難被害を防ぐため、予めキャッシュレス決済システムや防犯カメラなど設備を導入する必要がありますので、初期にそれなりの金額投資が必要となります。
事業再構築補助金を利用できる
事業再構築補助金とは、新型コロナウイルス感染症の影響で売り上げが減った中小企業などの事業再構築を支援するため、最大1億円を補助する制度となります。
事業再構築補助金の公募要領によりますと、コロナに適したビジネスモデルを構築する必要があります。無人販売の場合、非接触でコロナ感染リスクが低いですので、コロナに適したビジネスモデル対象になり、事業再構築補助金を利用できます。
“新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が期待し難い中、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するために新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援することで、日本経済の構造転換を促すことを目的とします。”
参考:事業再構築補助金 第8回公募要領
テイクアウトやデリバリーサービスの活用
飲食店の新型コロナウイルス対応として、真っ先に思い浮かぶのがテイクアウトやフードデリバリーサービスの活用です。
日本国内では、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府から外出自粛要請や、飲食店の営業時間短縮の要請などが行われました。当然、飲食店からすれば、営業時間が大幅に短くなるうえ、来店するお客様が少なくなることから、売上にかなりの影響が出ています。さらに、営業可能な時間帯であっても、店内が密にならないような席の配置にする、予約制などにして店内に入る人数を減らすなどと言った感染予防対策が求められ、店内飲食での収益を安定させることが非常に難しくなっていました。
そこで、多くの飲食店では収益を確保するため、テイクアウトメニューの開発や、フードデリバリーサービスの活用など、新型コロナウイルスに向き合った営業方法の強化を進めています。実際に、コロナ問題以降、ウーバーイーツや出前館など、フードデリバリーサービスの鞄を背負った配達員を街中で見かけることは非常に多くなっていると思います。テイクアウトやデリバリーサービスの活用に関しては、デリバリー用の容器さえ用意出来れば、従来のメニューを弁当として販売することができますので、大きな設備投資などをしなくても新たな収益源を確保できる点が、飲食店にとって大きなメリットになっています。
関連:Fact ism「コロナ禍で当たり前となった『フードデリバリーサービス』。実際の所、どんな仕組みで運営されているの?」
冷凍自販機を活用する
新型コロナウイルス問題が長引く中、飲食業界で大きな注目を浴びるようになったのが、冷凍食品の自販機販売です。日本人にとっては、外出先でも手軽に飲料を手に入れられる自販機は非常に身近な存在と言えます。そして、飲食店による自販機販売と言う事業展開は、「非接触・非対面で、24時間商品の販売が可能」と言う非常に大きなメリットがあります。もちろん、自販機販売用のメニューの開発や食品加工が必要になりますが、2022年に入り、一気に飲食店による自販機販売が拡大しています。
飲食店による自販機販売の事例
コロナ問題以降、街中で食品の自販機を見かけることが増えているという印象がある方も多いでしょう。実際に、SNSなどでも、街で見かけた食品関連の自販機に言及している投稿も増えているようです。こういった食品の自販機については、サンデン・リテールシステム株式会社が提供する冷凍食品向けの自販機「ど冷えもん」が有名です。最近では、テレビなどでも特集されることが増えており、「ど冷えもん」と言う名称を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか?
「ど冷えもん」は、2021年1月から全国各地で展開されるようになり、既に中食サービス領域で約2,000店舗が導入しているようです(※販売サイトでの掲載情報)。以下に、いくつか事例もご紹介しておきましょう。
このように飲食店での自販機販売が拡大しているのは、食品衛生法の改正が後押ししているという背景もあります。2021年6月に施行された改正食品衛生法では、営業許可業種の見直しが行われています。これによって、従来は食品の自販機販売を行う時には営業許可を取得する必要があったのですが、申請手続きなどがかなり簡略化され、コロナ禍で大きなダメージを受けた飲食店の新たな収益獲得手段として取り入れられるようになっています。
改正食品衛生法では、調理機能のない冷凍・冷蔵の自販機、または調理機能を有する自販機でも「高度な機能を持ち屋内に設置される」と言う条件下では、届出のみで自販機販売をスタートさせることができるようになっています。特に、すでに加工された冷凍食品を補充するだけの自販機販売と言う形態であれば、厚生労働省の食品衛生申請等システムからオンライン申請するのみでスムーズに自販機販売を開始できる点が、昨今の急速な自販機販売の拡大を後押ししていると考えられます。
> 厚生労働省「営業規制(営業許可、営業届出)に関する情報」
無人販売所を活用する
コロナ禍による非接触・非対面ニーズの高まりを背景に、飲食業界では自動販売機での販売と並んで、無人販売所を開設する動きも活発になっています。無人販売所は、自販機と同じく、24時間営業することができ、利用者は人と対面することもなく、非接触にて気軽に買い物ができるというメリットが存在しており、コロナ問題以降、無人販売をスタートする飲食店が増加しています。
食品の無人販売については、野菜や果物の無人販売が有名ですが、飲食店などが加工食品の無人販売をする場合、保健所からの営業許可と食品衛生責任者の資格が必要になるので注意してください。野菜の無人販売は、許可や届出など必要ないのですが、加工食品の場合、販売する食品によって許認可が必要です。最近、街中でよく見かける冷凍餃子など、冷凍食品の無人販売所であれば、「食品の冷凍又は冷蔵業」の営業許可などが必要になります。
飲食店による無人販売所の事例
コロナ禍以降、街中でよく見かけるようになった加工食品の無人販売所の事例をいくつかご紹介します。
- 餃子の無人販売所 餃子の無人販売所では、「餃子の雪松」が有名です。「餃子の雪松」の無人販売所は、コロナ問題が発生する前の2019年にスタートしています。そして、コロナ問題以降、飲食店の時短営業などにより、無人販売所の需要が一気に拡大して、全国に店舗数を増やしています。餃子の雪松の無人販売所は、コロナ問題以前の2020年1月には19店舗だったものが、新型コロナウイルス問題により一気に店舗数が増え、2022年4月時点で372店舗まで増えています。
- 和牛ホルモン専門の無人販売所 2021年5月、東京・恵比寿にオープンしたのが、和牛ホルモン専門の無人販売所「naizoo(ナイゾー)」です。この無人販売所は、東京・恵比寿と言う立地から、まるでカフェやアパレルショップを思わせるような内装になっており、販売されているホルモンのパッケージデザインも洗練されています。
- サラダの無人販売所 最後は2021年11月にオープンしたサラダの無人販売所「CRISP STATION(クリスプ・ステーション)」です。この無人販売所は、首都圏を中心にサラダ専門店を展開しているCRISP(クリスプ)社が手掛けています。この無人販売所の大きな特徴は、他の無人販売所とは大きく異なり、店舗にレジ会計が無いつくりになっている点です。無人販売所でサラダを手に取り、好きな場所でサラダを食べた後、パッケージに付属されているQRコードを使って決済を済ませるという手軽さも若者世代からの支持を集めるかもしれません。
この他にも、さまざまな種類の無人販売所が全国でどんどん登場しています。ただ、無人販売所の増加に伴い、窃盗事件なども増えていると言われていますので、セキュリティ対策については慎重に検討しなければならないでしょう。
インターネット通販を活用する
新型コロナウイルス感染症拡大以降、飲食店での最も手軽な売り上げ確保手法としては、インターネット通販を開始するという手法かもしれませんね。店舗で提供しているメニューの中には、真空パックや冷凍することで、インターネット通販で販売することも可能なケースも多いです。近年では、モール型のショッピングサイトが充実していますし、決済システムなどが最初から付属されているうえ無料で利用できるECシステムなどがあることから、ネットショップを開始することだけを考えるとそこまでハードルは高くありません。
ただ注意しておきたいのは、飲食店が新たにネット通販をスタートする場合、製造業系の営業許可を取得する必要があるということです。飲食店の営業許可は、店内での飲食提供に対する許可に限られているので、厨房で調理したメニューを真空パック詰や冷凍加工して販売する場合、製造業の許可または届出が新たに必要となります。この辺りは、以下の資料が非常にわかりやすかったので、これからインターネット通販などをスタートしたいと考えている方がいれば、ぜひ確認しておきましょう。
> 八王子市保健所「新たにテイクアウトやデリバリーを始める飲食店の皆様へ」
まとめ
今回は、新型コロナウイルス感染症拡大以降、窮地に陥っている飲食業界で進む、新たな販売戦略について解説してきました。新型コロナウイルスの感染拡大防止については、「人との接触を減らす」と言うことが非常に重要とされていることから、飲食業界にはさまざまな制限が求められてしまい、店内飲食での収益を安定させることが非常に困難になってしまいました。
そこで飲食業界では、新たな売り上げ確保の手段として、無人販売所や自販機販売など、非接触・非対面による販売をスタートさせる企業が急増しています。新型コロナウイルスの新規感染者数は、ある程度落ち着いてきましたが、長引くコロナ禍によって外食ではなく家で食事をするというのが習慣化してしまった方も増えていると言われています。そのため、コロナ問題が落ち着いたとしても、従来通りの客足が飲食店になかなか戻ってこないのではと予想されています。
無人販売所や自販機販売については、24時間、人件費などを掛けることもなく、新たな販売チャネルとして活用できますので、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか?なお、導入する販売方法によっては、新たに営業許可を取得する必要などがあると思いますので、ご注意ください。