今回は、食品関連事業者が細心の注意を払っていかなければならない、細菌性食中毒について解説していきたいと思います。これから夏にかけて気温が上昇していきますので、多くの方が「食中毒に注意しなければならない」という意識を持つ時期でもあります。特に、5月の後半から7月前半にかけては、日本特有の気候である梅雨に入ると気温と共に湿度が高くなることから、食中毒の原因となる細菌の増殖が活発になります。
もちろん、日本国内の食中毒事情から考えると、夏場だけ食中毒に注意すれば良いというものではないのですが、「季節によって食中毒の原因が異なる」と言うことをきちんと理解しておくことで、適切な対処ができるようになると思います。一般的に、梅雨から夏にかけては、「腸管出血性大腸菌(O-157、O-111など)」や「カンピロバクター」、「サルモネラ」による食中毒の発生件数が目立つと言われています。この記事では、日本国内での食中毒発生の推移と、これから気温が上がる季節に注意すべき細菌について解説します。
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日本国内の食中毒事情について
厚生労働省の調査によると、直近5年間の日本国内における食中毒発生件数については、年度によって変動はあるものの、900~1400件程度の幅で推移しています。そして、令和2年度の食中毒発生件数は、887件となっており患者数は14,613人と報告されています。
参照資料:厚生労働省「食中毒統計資料」
なお、令和2年度に発生した食中毒について、その発生原因の約6.5割が細菌性食中毒で、約2.5割がノロウィルスなどのウィルス性食中毒となっています。
画像引用:農林水産省公式サイト
上のグラフから分かるように、日本国内で発生する食中毒については、その大半を細菌やウィルスが占めており、食品を取り扱う事業者は、これらが原因となる食中毒の予防対策が必要不可欠です。
食中毒の発生が多い季節について
一般的に、食中毒の発生件数が多い時期は、高温多湿になる梅雨から夏にかけてと考えられています。実際に、5月から7月にかけては、カンピロバクターや黄色ブドウ球菌、サルモネラなどの細菌を原因とする食中毒が増加すると言われています。ただ、日本国内の季節別食中毒発生件数を確認してみると、食中毒は「夏場に注意しなければならない」とは一概に言えないような結果になっています。以下に、厚生労働省が公表した、月別の食中毒発生件数をご紹介しておきます。
画像引用:厚生労働省「令和2年食中毒発生状況」
上のグラフから分かるように、日本国内では、年間を通して、食中毒が一定数発生していますので、日頃から食中毒の予防を心がけておかなければいけません。ただ、季節によって食中毒の発生原因に違いがみられますので、食品を取り扱う事業者は、季節ごとの食中毒の特性を掴んで、しっかりと予防対策を行っていくべきでしょう。 例えば、梅雨時期(5月~6月)や夏(7月~9月)などについては、高温多湿な気候となりますので、細菌性の食中毒発生件数が増加します。そして、冬場(12月~3月)に関しては、細菌性食中毒は減少し、ノロウィルスなどのウイルス性食中毒が急増するというデータが出ています。上のグラフは、過去3年間の月別食中毒発生推移を表したグラフなのですが、どの年度もこれに当てはまっています。
これからも分かるように、これから迎える梅雨や夏に向けては、細菌が原因となる食中毒予防に注力しなければいけません。
食中毒を引き起こす主な細菌と予防のための対策について
それではここから、気温と湿度が高くなっている5月から夏場にかけて注意しなければならない代表的な細菌と食中毒を予防するための対策をご紹介しておきます。ここでは、厚生労働省が公表している情報を中心にご紹介します。
腸管出血性大腸菌(O-157、O-111など)
腸管出血性大腸菌は、非常に毒性が強く、特に乳幼児や高齢者においては「溶血性尿毒症症候群(HUS)」などを引き起こし、腎臓や脳に重大な障害を生じさせたり、時には生死に関わるような重大な症状に発展してしまう恐ろしい細菌です。さらに、感染力も非常に強く、ごく少量の細菌が食品に付着しているだけで感染するうえ、入浴やトイレの取っ手などを介して家族への二次感染なども引き起こす可能性があると言われています。この細菌は、2011年、富山県の焼き肉店で大規模な食中毒事故を発生させ、患者のほとんどがユッケなどの生肉メニューを食べたことによる食中毒が原因との知見が出ています。その後の調査で、レバ刺し用に加工された牛レバーの内部から腸管出血性大腸菌(O-157)が検出され、牛レバーの生食の危険性が認知され、法律で禁止される事態にまで発展しています。
参照:厚生労働省「牛レバーを生食禁止について」
カンピロバクター
カンピロバクターは、動物の消化管に存在していて、この細菌による食中毒の多くは、生の鶏肉(トリ刺し等)が原因となっているとされています。過去に、東京都立衛生研究所が行った調査では、市販の鳥肉の約73%からカンピロバクターが検出されたという報告も存在しています。このことから、家庭で発生する食中毒については、鶏肉の下処理をした包丁やまな板について、十分な洗浄をせずにそのまま野菜などを切り、交差汚染が起きてしまうことで家庭内食中毒が発生しているのだと考えられます。
- 中心部まで十分に加熱しましょう。 (中心部を75℃で1分間以上)
- 食肉は他の食品と調理器具や容器を分けて、処理・保管しましょう。
- 食肉を取り扱った後は十分に手を洗ってから他の食品を取り扱いましょう。
- 食肉に触れた調理器具などは使用後に消毒・殺菌をしましょう。
参照:厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について」
厚生労働省の公式サイト内では、上記以外の食中毒原因についても、食中毒を予防するための対策などが紹介されていますので、ぜひ確認しておきましょう。また、弊社が運営するFact ismでは、過去に食中毒予防のための大原則を詳しく解説していますので、そちらの記事もぜひご確認ください。
> 厚生労働省「食中毒」
関連記事:Fact ism「高温多湿な日本は食中毒に注意!食中毒を防ぐための『食中毒予防の原則』とは?」
まとめ
今回は、食品を取り扱う事業者が注意しておきたい、細菌性食中毒について解説してきました。この記事でご紹介したように、気温が上昇し湿度も高くなるこれからの季節は、腸管出血性大腸菌やカンピロバクター、サルモネラなどの細菌を原因とする食中毒が急増します。したがって、これから増加するであろう細菌の特性を掴み、食中毒事故の予防対策を考えておきましょう。
なお、食中毒の原因となる細菌の中には、非常に感染力が高く、包丁やまな板などを介して食品汚染が広がってしまうケースが非常に多いです。実際に、本来、腸管出血性大腸菌などの心配がないはずのサラダ類が食中毒の原因となっていたなどと言う事例も過去に多く存在しています。
さまざまな食材を使用する食品工場などは、こういった交差汚染が起きないよう、調理器具に分かりやすい目印をつけ、食品によって使い分けるなどのルールを改めて徹底しましょう。