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食品工場を建てる

食品工場の建設プロジェクト立案と基礎知識

食品工場を建てるまでの
基礎知識から計画立案まで

食品工場は、通常の建物と違って建設の難易度が高く、どこの建設会社や設計事務所に頼んでも作れるものではありません。建物を建てることは可能ですが、温度管理や、使い勝手、メンテナンス性など後から容易に変更ができない点も多く、食品や製造に必要な機能を計画段階から考慮しておく必要があります。また、食品工場の経験があっても取り扱う商材によって考慮すべき点が異なり、実績だけで選ぶことも危険です。その一例を見ていきましょう。

食品工場の建設にあたって

取り扱う商材によって
求められる役割

ROLE REQUIRED

飲料工場
飲料工場の場合は、製造される商品が暴露された状態は少なく、充填エリア以外はインラインになることが多いため、クリーン度が高い室を限定的にした計画を行います。また、インラインで機械化が図りやすいため、従業員を少なくする工夫なども併せて検討します。
粉体・製パン工場
製パン工場の場合は、原料の粉体の扱いが重要になります。室内はDRY環境になる場合が一般的で、空調機や空間に粉対策を施したり、メンテナンスがしやすい計画や機器選定を行います。
食肉加工工場
食肉加工工場の場合は、取り扱う肉の部位や種類によって対策が変わりますが、全体的に室内はWET環境になる場合が一般的で、菌が発生しにくく、汚れが落としやすい配慮が必要です。また、室内の温度もコントロールする必要があります。
水産加工品
水産加工工場の場合は、全体的に室内はWET環境になる場合が一般的で、菌が発生しにくく、汚れが落としやすい配慮が必要です。また、室内の温度もコントロールする必要があります。さらに、海水による塩害対策として、塩害の影響を受けにくい仕様選定や計画を行います。
総菜製造工場
惣菜製造工場の場合は、加工や調理など工程が多く、比例して従業員も多くなったり、加工室の面積が広くなる傾向があるため、動線の無駄や無理がない計画を行います。また、工場内は煮炊きの蒸気による結露が発生しやすい環境であるため、空調の計画や機器選定も重要です。
セントラルキッチン
セントラルキッチンの場合は、取り扱う商品や工程の程度によって対策が変わるため、商品や工程の特性をフローダイアグラムなどをともに詳細を把握しながら環境に応じた計画や機器選定を行います。加工や調理など工程が多い場合は、比例して従業員も多くなったり、加工室の面積が広くなる傾向があるため、動線の計画も重要です。
カット野菜工場
カット野菜工場の場合は、全体的に室内はWET環境になる場合が一般的で、菌が発生しにくく、汚れが落としやすい配慮が必要です。また低い室温を維持する空調機や、洗浄に伴う給排水設備のコストが高いため、適切な仕様選定を行います。
冷凍食品
冷凍食品工場の場合は、冷凍温度帯を維持するためのコストが高いため、保管形態や保管量、入出庫の方法など保管方法の計画を考慮した適切な空間設定と冷却器の仕様選定を行います。
調味料・香料
調味料・香料工場の場合は、取り扱う商品の形態によって対策が変わりますが、調味料や香料から発する臭気対策が必要になることが多いです。臭気の質によって脱臭の対策も異なるため、調査を行った上で計画に反映させます。
菓子工場
菓子工場の場合は、取り扱う商品の形態によって対策が変わりますが、温度や湿度のコントロールが必要になることが多いです。設定条件の許容値を確認し、過不足が無い空調の計画や機器選定が重要です。

このように、工場製品と違って様々な条件が絡んでくるので、まずは箱だけを建てるという訳にはいきません。食品工場は、大は小を兼ねることができないので、しっかりとした計画と準備が必要となってきます。老朽化してきたので漠然と建替えを検討しているような場合も、新たな法律や規制に対応しなければならなかったり、工場の建設、建替え、改修など目的を明確にしていかないと取り返しがつかなくなります。

食品工場建設のロードマップ

ROAD MAP

食品工場建設のロードマップ

規模にもよりますが、計画から運用までに概ね2年ほどが目安となります。建設フェーズより、計画・設計フェーズの方が時間を要すのがわかります。

食品工場の建設までの道のり

ROAD TO CONSTRUCTION

process 1

新工場建設の目的の確定

工場建設の代表的な目的としては、「増産」「老朽化」「衛生改善」「拠点集約」「補助金活用」が挙げられます。

process 2

生産能力の確定(原料、製品物量把握)

食品工場建設は、生産能力が決まらないことには進められません。生産量を明確にすることで事業の採算性の検証が行え、事業計画の立案が可能となります。

process 3

目標予算の確定(土地、生産機械、建築)

事業計画に基づき、目標予算を設定する。尚、計画を進めていく中で予算の見直しが発生することが往々にしてある。決められた予算の中で計画を進める場合は、優先順位付けが重要となり、目的が明確でなければ優先順位を決めることはできず、計画が止まる。

process 4

改善テーマの抽出(安全安心・生産性)

既存の向上の問題点、改善点を明確にすべきである。既に工場を保有している場合は、既存工場の問題点を抽出し改善方法を新工場に反映させます。
改善するために投資が必要なこともありますが、予算に合わない場合、ここでも目的を明確にしておくことで投資の判断ができます。

process 5

生産工程、衛生基準の確定

稼働した後に製造に必要な機能を十分満たすように作業時間やユーティリティーの能力を設定する。また、実現したい衛生レベルも明確にする。これらの設定が適正でなければ想定していた機能が果たせず、無駄な投資となる。

工場メンテナンスの重要性

IMPORTANCE OF MAINTENANCE

工場は竣工した瞬間から劣化していきます。
ただ建てるだけではなく、中長期のメンテナンス計画に合わせた建材を選んだり、機械が入れ替えられるように開口部を大きくとったり長く稼働させることを前提としています。設計段階からイニシャルコストだけではなく、定期的なメンテナンスも考慮した予算を組む必要があります。また、誰がメンテナンスをするのかも含めて、計画に盛り込んでおく必要があります。
メンテナンスの重要性

予算とのバランス

BALANCE WITH BUDGET

ここまでどのように建物を建てるべきかイメージができたのではないでしょうか。誰もが最新できれいな工場を建てたいと考えますが、予算の壁が立ちはだかります。なるべく安く建てたいですが、食品工場はオーダーメイドのため、大量に流通している建材や規格サイズの建材を使って安く建てることが難しいです。状況によっては新築だけではなく、改修や増築、部分建替えなども検討しましょう。

新しい土地もなく、生産活動を止めることができない場合は、稼働しながら改修するしか選択肢がない場合もあります。また、工場建設は自社の一大プロジェクトで、あれもこれもと、機能や設備を詰め込んで予算が膨れ上がる傾向が”よく”ありますし、建設期間として1~3年、稼働してからのメンテナンスタイミングで年単位で時間がかかります。物価は上がることはあっても下がることはないので、少なくとも5年先を見越した事業の採算性を考慮した予算組みが必要となります。

新築

メリット

面積や運用に制限なく、自由に設計ができる
既存不適格や違法建築など、既存建物による法的な制限がない
施工や引越しによる生産停止など影響がない

デメリット

土地・建物・生産機械の一新に費用がかかる
土地の条件により、開発、造成工事が必要となる
場所によっては雇用者の確保が困難となる

建て替え

メリット

土地にかかる費用が不要となる
新たに雇用者の確保をする手間がなくなる
既存のインフラを利用することができる

デメリット

施工や引越しによる製造の停止期間が発生する
既存土地の条件や既存建物の残す程度により、設計の自由度が低くなる

増築

メリット

所有地内に収まる場合、土地代が不要となる
既存工場に不足している機能だけを補う計画でに留められる

デメリット

事前調査の結果、建設不可な可能性がある
面積や運用に制限があるため、使い勝手が悪くなる可能性がある
増築の位置により、施工による生産停止など影響がでる

改修

メリット

土地代が不要となる
改修範囲が少ない場合、改修費が安価に収まる

デメリット

事前調査の結果、建設不可な可能性がある
大掛かりな改修工事の場合、施工による生産停止など影響がでる
生産機械が収まらない、既存のインフラが足らないなど可能性がある

ここまでで、食品工場建設を計画するポイントが理解できたと思いますので、上限予算を決め優先順に沿って設計へ挑みましょう。
次は、設計において気を付けるべき点を見ていきます。