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投稿日:2023.07.28 

食品業界も取り組む脱炭素を考慮した新燃料について

太陽光発電

今回は、2050年カーボンニュートラルの実現が目指されている中、食品業界を始め、さまざまな業界が注目している「脱炭素を考慮した新燃料」について解説します。
 
カーボンニュートラルを実現するためのエネルギー政策と聞くと、再生可能エネルギーの中で最も普及している太陽光発電をイメージする方が多いと思います。実際に、食品工場などの製造現場でも、脱炭素社会実現の取り組みとして、太陽光発電+蓄電池を設け、工場のZEB化※1を目指すという取り組みが現在の主流になっています。
 
カーボンニュートラルの実現に向けては、この他にもさまざまなグリーンエネルギー技術※2が開発されています。そこで当記事では、現在開発が進んでいる「脱炭素を考慮した新燃料」について、いくつかの事例をご紹介します。
 

MEMO

※1 ZEB:快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のこと

※2 グリーンエネルギー:発電時に発生するCO2排出量が少なく、環境に負荷が小さいエネルギーのこと

 
 

大気中のCO₂を再利用する「合成燃料」

合成燃料は、「次世代のグリーン燃料」と呼ばれる新燃料で、製造時にCO2を再利用することからカーボンニュートラル実現に向けて、さまざまな業界で注目されています。
 
合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料のことです。この燃料は、複数の炭化水素化合物の集合体であることから「人工的な原油」とも呼ばれています。資源エネルギー庁のWebサイトには、合成燃料について以下のような評価が記載されています。
 
原料となるCO2は、発電所や工場などから排出されたCO2を利用します。将来的には、大気中のCO2を直接分離・回収する「DAC技術」を使って、直接回収されたCO2を再利用することが想定されています。CO2を資源として利用する「カーボンリサイクル」に貢献することになるため、「脱炭素燃料」とみなすことができると考えられています。
 
引用:資源エネルギー庁Webサイトより
 
合成燃料を製造するための、原料となる水素は、製造過程でCO2が排出されない再生可能エネルギー(再エネ)などでつくった電力エネルギーを使い、水から水素をつくる「水電解」をおこなうことで調達する方法が基本となります。現在、「石油や石炭などの化石燃料から水蒸気を使って水素を製造する」という方法が主な水素製造方法となっているのですが、合成燃料の製造にこの方法を組み合わせた場合、「①化石燃料から水素をつくる⇒②その製造過程で発生したCO2を分離・貯留する⇒③その後別の回収したCO2と合成する」と言った非効率な製造プロセスになります。そのため、先述した再エネで作った電力による水電解が基本的な水素を調達する方法となります。
 
再エネ由来の水素を用いた合成燃料は「e-fuel」とも呼ばれていて、この合成燃料は原油に比べて硫黄分や重金属分が少ないという特徴があり、燃焼時にもクリーンな燃料となります。
 

MEMO

※ DAC技術:「Direct Air Capture」の頭文字を取った略語で、大気からCO2を直接回収する技術のこと

 

合成燃料のメリット

液体の合成燃料は、化石由来のガソリンや軽油などの液体燃料と同じく、「エネルギー密度が高い」という特徴があります。そのため、少ないエネルギー資源量であっても、多くのエネルギーに変換できるメリットがあります。
 
昨今の自動車業界では、水素自動車や電気自動車など、自動車の水素化や電気化が急速に進んでいます。しかし、従来のガソリンなどの液体燃料と電気・水素エネルギーを比較すると、エネルギー密度の観点から、動力源を電気・水素エネルギーに転換させることがむずかしいモビリティや製品が多く存在すると言われています。液体合成燃料は、これらの動力源としても有効とみなされています。
 
例えば、大型車やジェット機などについて、これを水素化・電動化しようとした場合、液体燃料と同様の距離を移動させることを検討した際は、大容量の電池・水素エネルギーが必要となり、動力源の転換が非常に困難だとされています。液体合成燃料は、前述の通り「エネルギー密度が高い」という特徴から、少ない容量でも対応可能で、このケースを基に、化石燃料由来の液体燃料を液体合成燃料に置き換えることができるようになれば、エネルギー密度を保ちながらCO2の排出量を削減することができると期待されています。
 
さらに、液体合成燃料は、従来のガソリン車などと同じく、内燃機関やすでに存在している燃料インフラを活用できる点が非常に大きなメリットとされています。水素自動車や電気自動車は、CO2の排出量削減が可能だとわかっているものの、インフラ整備が追いついていないことが問題点として指摘されることが多いです。合成燃料の場合は、日本全国で既に稼働している燃料インフラをそのまま使用することが可能なため、導入コストを抑えられ、市場への導入がスムーズに進むと考えられています。
 
なお、合成燃料の今後の課題は、製造技術の確立だとされています。現在の製造技術では、製造効率の問題がまだ解消されておらず、効率の向上が課題となっています。また、従来の化石燃料よりも製造コストが高いという点も今後の実用化に向けた重要な課題とされています。
 
参照:資源エネルギー庁Webサイトより
 

アンモニアを利用した発電技術

2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」では、水素やアンモニアによる発電が初めて電源構成に盛り込まれています。
 
アンモニアは、独特な刺激臭を持っていることから、一般の方にとっては「臭いのきつい有毒物質」というイメージが強いかもしれません。しかし、アンモニアは、カーボンニュートラル実現に向けた、次世代エネルギーの一つとして大きな期待が寄せられています。
 

アンモニア発電とは?

アンモニアの用途と言えば、畑などで使用される化学肥料があります。植物の生育に欠かせない肥料の三要素は「窒素、リン酸、カリ」なのですが、水素(H)と窒素(N)で構成されるアンモニアは、窒素肥料の原料として利用されています。
 
しかし、カーボンニュートラルの実現のため、アンモニアを燃料として燃やすアンモニア発電が注目されるようになっています。政府が2021年に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」でも、アンモニアによる発電が初めて電源構成に盛り込まれており、2030年までに水素やアンモニアによる発電量を、全体の1%を占めるようにするという見通しがたてられています。
 
ここでは、アンモニアを燃料とした発電方法について、具体的な2つの方法を解説します。
 

混焼

混焼は、ガスタービン発電や石炭火力発電の燃料にアンモニアを混ぜて燃焼させる発電方法です。現在は、火力発電のボイラーにアンモニアを混ぜて燃焼させる混焼が、アンモニア発電で最も技術開発が進んでいると言われています。なお、今後の展望としては、アンモニアのみを燃料として燃やす「専焼」に関する研究が進められているそうです。
 

燃料電池

アンモニアを燃料とした燃料電池の実用化も期待されています。燃料電池は、水素の運搬・貯蔵などが難しく扱いづらい点が課題とされています。そのため、水素などよりも扱いやすいアンモニアを使った燃料電池の開発が進められています。

 

アンモニア燃料のメリットと課題

次世代エネルギーとしてアンモニア発電が注目されているのは、以下のメリットがあるからです。

  • 発電時にCO2を排出しない
    アンモニア発電の最大のメリットはカーボンフリーな点です。例えば、国内の全ての石炭火力発電所でアンモニアの20%混焼を行った場合、約4,000万トンのCO2を削減できるとされています。専焼が実現した場合、なんと約2億トンものCO₂排出削減が実現するという試算も出ています。
  • 水素と比較すると、扱いやすく、コストが安い
    アンモニアを燃料とした燃料電池の開発が進められているのは、このメリットがあるからです。アンモニアは、古くから肥料として活用されていたという歴史があることから、運搬や貯蔵技術が確立されています。さらに、専焼による発電コストは、水素の約1/4程度に収まるなど、コストが抑えられる点もメリットです。
  • 既存の施設がそのまま活用できる
    混焼によるアンモニア発電は、既存の火力発電所をそのまま利用することができる点が大きなメリットです。

アンモニア発電には、上記のようなメリットがあります。ただ、以下のような課題も指摘されています。

  • 発電時に窒素酸化物を排出する
    窒素酸化物は、のどや気管、肺などの呼吸器に悪影響を及ぼすなど、人体への影響や光化学スモッグ、酸性雨の原因になります。したがって、窒素酸化物の制御や排出抑制がアンモニア発電の大きな課題となります。
  • アンモニア製造時にCO₂を排出する
    現在、ハーバー・ボッシュ法と呼ばれる方法でアンモニアが製造されていますが、この過程で多くのCO2が排出されます。アンモニア発電ではCO2を排出しないものの、製造時に多くのCO2を排出するという点は、今後の課題です。

 
参照:資源エネルギー庁Webサイト
 

バイオマスの活用

最後は、バイオマスを活用したさまざまなエネルギーです。ここでは、「バイオマス発電」「バイオマス熱利用」「バイオマス燃料」について簡単にご紹介します。なお、「バイオマス」の定義については、農林水産省のWebサイトで以下のように解説されています。
 
バイオマスの定義
バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」です。
太陽エネルギーを使って水と二酸化炭素から生物が光合成によって生成した有機物であり、私たちのライフサイクルの中で生命と太陽エネルギーがある限り持続的に再生可能な資源です。石油等化石資源は、地下から採掘すれば枯渇しますが、植物は太陽と水と二酸化炭素があれば、持続的にバイオマスを生み出すことができます。
このようなバイオマスを燃焼させた際に放出される二酸化炭素は、化石資源を燃焼させて出る二酸化炭素と異なり生物の成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素であるため、バイオマスは、大気中で新たに二酸化炭素を増加させない「カーボンニュートラル」な資源といわれています。
 
引用:バイオマスとは?
 

バイオマス発電

バイオマス発電は、生物資源を「直接燃焼」したり「ガス化」するなどして発電する方法です。バイオマスに関する技術開発が進んだ現在は、さまざまな生物資源が活用できるようになっています。
 
バイオマス資源を燃料とした発電は「京都議定書」における取扱上、CO2を排出しないものとされているため、カーボンニュートラル実現に向けて、重要な立ち位置にある技術とみなされています。また、廃棄物の再利用や減少につながるなど、循環型社会構築に大きく寄与すると期待されています。食品業界でも、以下のように、既に導入が始まっています。
 
バイオマス発電設備
引用:資源エネルギー庁サイトより
 
生活協同組合コープこうべ直営の食品工場で生産する豆腐、麺、パンなどの製造過程で発電する生ゴミ5tと排水処理施設から排出される汚泥1tをメタンガスに変換し、電気や熱エネルギーとして工場内で再利用している。
 

バイオマス熱利用

バイオマス熱利用とは、バイオマス資源を直接燃焼させ、排熱ボイラから発生する『蒸気熱』を利用したり、バイオマス資源のメタン発酵により発生したメタンガスを都市ガスの代わりに利用することを指しています。
 
バイオマス熱利用についても、廃棄物を再利用することで循環型社会を形成していくため、多くのメリットがあります。
 
バイオマス熱利用
引用:資源エネルギー庁サイトより
 
豆腐、油揚げ、いなり寿司等の各種加工米飯を製造している同社工場では、油揚げ製造廃液が濃厚廃液で、排水処理への汚濁負荷が高かったが、この高濃度廃液をメタン発酵し燃料とすることで、排水処理容積や電気量を抑えることが可能となった。
 

バイオマス燃料製造

動植物などから生まれた生物資源の総称が『バイオマス』で、これらの資源から製造される燃料のことをバイオマス燃料やバイオ燃料と呼びます。なお、バイオマス燃料には、固体燃料、液体燃料、そして気体燃料があります。以下に代表的なバイオマス燃料をご紹介します。
 

  • バイオエタノール
  • バイオディーゼル燃料
  • バイオジェット燃料
  • バイオガス
  • 木質ペレット

 
バイオマス燃料製造施設
引用:資源エネルギー庁サイトより
 
食品産業等から排出される廃食用油を回収し、バイオディーゼル燃料を製造する。軽油と混合した「バイオ燃料混合軽油」を含め、産業廃棄物運搬車両等に利用する。複数の事業者と災害時における燃料供給の協定締結もしている。
 

まとめ

今回は、脱炭素社会の実現に向け、急速に研究・開発が進む、環境に配慮されたさまざまな新燃料について解説しました。日本国内では、太陽光発電システムが再生可能エネルギーとして、広く認知されていますが、それ以外にも新燃料は存在します。
 
ただ、どのエネルギーに関しても、一長一短で、実用化に向けては解決しなければならない課題も多いように思えます。なお、この記事でご紹介した新燃料以外にも、地熱の活用など、その他の技術も開発が進んでいます。地熱の活用については、別記事で触れていますので、以下の記事もご参照ください。
 
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この記事を書いた人

sande

安藤 知広

FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長

1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。