今回は、食品を取り扱う施設がおえておかなければならない『洗浄』に関する基礎知識を紹介します。食品を取り扱う施設は、安全な食を提供するため、衛生管理体制が何より重要視されており、各食品工場などでは非常に厳しい衛生管理に関するルールが設けられています。そして、安全な食の提供を考えた時には『洗浄』が衛生管理の基礎になります。ちなみに、文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課が作成した『調理場における洗浄・消毒マニュアル』では以下のように説明されています。
洗浄は、対象物に付着している食物、塵埃、土壌などを除去することであり、また、農薬や有害微生物の絶対数を減少させ、安全な給食を提供するための衛生管理の基本であることを正しく理解して実施しなければなりません。
引用:文部科学省資料より
この記事では、さまざまな場面での洗浄に関する注意点をまとめていきます。
Contents
①手指の洗浄について
まずは、食品を取り扱う施設での衛生管理の基本となる、従業員の手指に関するポイントです。どれだけ施設内を清潔に保っていたとしても、作業を担う従業員の手指が不衛生であれば、食の安全を守ることはできません。手指の衛生管理としては、以下のポイントです。
衛生管理チェックポイント
食品工場などで作業に従事する従業員は、安全な食を提供するため、以下のようなポイントに注意します。
- 作業を開始する前に、指輪や時計などのアクセサリー類を外す
- 爪は短く切り、付け爪やマニキュアをしない
- 作業の節目ごとに適切なタイミングで手洗いする
- 手に傷がある場合、肌荒れがある場合は、責任者に報告する。
手指の洗浄マニュアル
手洗いは、以下の手順でしっかりと行うように指導しましょう。
- 流水で手を洗う
- 洗浄剤を手に取り、よく泡立てる
- 手のひら、指の腹面をよくこすり洗う
- 手の甲、指の背を洗う
- 指の間(側面)、股(付け根)は手を組むようにしてよくこする
- 親指は、反対の手でつかみねじるように洗う
- 指先、爪の間を洗うため、手のひらの上でこする
- 手首は反対の手でつかみねじるように洗う(調理従事者は、肘まで洗う)
- 洗浄剤を十分な流水でよく洗い流す
- ペーパータオルなどで水分を拭き取り乾燥させる
- アルコールによる消毒を行う
手指の洗浄は、上記の流れで行ってください。なお、一部文字だけでは分かりにくい部分もあるかと思いますので、以下の資料でイラストも確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「2014強化ノロ手洗い最終版1015ol」
②調理器具(ボウル・ざる)の洗浄について
次は調理器具の衛生管理に関するチェックポイントです。この部分では、食品工場などでも良く使用されるボウルやざるを取り上げておきます。
衛生管理チェックポイント
まずは、調理器具の衛生管理のポイントをいくつかご紹介しておきます。「毎日丁寧に洗浄していれば問題ない!」と考えてしまう方も多いですが、実は細かな調理器具は食品の異物混入事故の原因になってしまうケースも多いので、日常的に以下のポイントを確認します。
- 調理器具を使用目的別に区別する
- 調理器具の破損や劣化は、異物混入の危険性が高くなるので交換する
- 木製・竹製の物は使用しない
- 水はねを防止するため、床から60cm以上の清潔な場所or扉のある場所に保管する
関連記事:食品工場で起こりやすい異物混入とは?その原因と対策も考えてみましょう。
調理器具の洗浄マニュアル
それでは、ざるやボウルなどの調理器具の洗浄の手順をご紹介しておきます。
- 温水で下洗いをする
- 中性洗剤を使用し丁寧に洗う(油汚れなど、落ちにくい場合は強アルカリの洗浄剤を使用)
- 流水で洗剤がなくなるまでしっかりすすぐ
- 乾燥後、必要であれば消毒し、床上60cm以上の清潔な場所で伏せて保管する
- 使用前は、アルコール製剤で消毒する
調理器具の洗浄については、汚れを落としたいのか、微生物を殺したいのか、目的をはっきりさせておく必要があります。汚れを落としたいのであれば、洗浄剤を使用して洗えば良いのですが、微生物を殺したいのであれば、消毒剤を使用しなければいけません。この辺り、上でご紹介した文部科学省の資料で解説されていますので、引用しておきます。
*洗浄 ・ 消毒については、汚れを落としたいのか、微生物を殺したいのか目的をはっきりさせる。 *汚れを落とすときには洗浄剤を、微生物を殺したい場合には消毒剤を使わなくてはならない。 *ほとんどの場合は、汚れと微生物が混在しているので、洗浄剤でしっかりと汚れを落とし、その後に消毒剤で微生物を殺すことが必要である。 *洗浄 ・ 消毒を、科学的データに基づいた方法で実施することが必要である 引用:文部科学省資料より
③包丁・まな板の洗浄について
包丁やまな板は、直接食品に触れる器具のため、慎重に取り扱う必要があります。ここでは、衛生管理上のチェックポイントと洗浄の手順をご紹介します。
衛生管理チェックポイント
包丁やまな板について、交差汚染を防止するために、食材によって使い分けるなどの工夫が必要です。その他にも、以下のようなポイントに注意します。
- サビや蓄積汚れが発生していないか確認する
- 刃こぼれなの劣化が生じていないか確認する
- 包丁は、柄が木製のもの原則としてNGで、全体がステンレス製の物がオススメ
- まな板は、原材料や調理工程ごとに専用のものを用意する
- 木製のまな板は使用しない
- 表面に包丁による傷などがある場合は交換する
- 包丁、まな板ともに清潔で再汚染の心配がない場所で保管する
洗浄マニュアルについて
次は、包丁、まな板の洗浄手順について解説します。
■包丁について
- 温水で下洗いをする
- 中性洗剤を使用し丁寧に洗う(柄の付け根などは念入りに洗浄する)
- 流水で洗剤がなくなるまでしっかりとすすぐ
- 清潔なダスターなどを使用して水分を拭き取る
- アルコール製剤で消毒する(使用前にもアルコール製剤で消毒する)
- 消毒保管庫または清潔な棚で保管する
■まな板について まな板は、使用の度に小まめに洗浄する必要があります。さらに、その日の作業終了後は、消毒を含めて丁寧に洗浄します。 使用の度にまな板を洗浄する際は、以下の手順を守ります。
- 温水で下洗いをする
- 中性洗剤を使用しスポンジやブラシを使って丁寧に洗う
- 流水で洗剤がなくなるまでしっかりとすすぐ
- 清潔なダスターなどを使用して水分を拭き取る
- アルコール製剤で消毒する
④排水溝の洗浄について
最後は排水溝の洗浄についてです。排水溝の汚れを放置すると、悪臭・異臭の発生を招くほか、害虫や害獣の発生リスクが高くなります。
衛生管理チェックポイント
- 排水溝、蓋、グレーチングにゴミや汚れが溜まっていないか確認する
- 黒ずみ、ぬめり、べたつきなどが無いか確認する
- 悪臭や異臭が発生していないか
- 害虫が発生していないか
洗浄マニュアルについて
排水溝の汚れは、どのような食品を取り扱っているのかによって程度がかなり変わるため、施設ごとに適切な頻度、方法などのルールを明確に決めておかなければいけません。ここでは、基本となる排水溝の洗浄手順を簡単にご紹介します。
- 目立つ食品残渣やゴミを除去する
- 中性洗剤もしくは除菌洗浄剤を排水溝にまき、デッキブラシで擦り洗いする
- 排水口の蓋(グレーチング)も洗浄剤を使用して両面洗う(油汚れがひどい場合、強アルカリの洗浄剤を使用)
- 流水で洗剤がなくなるまでしっかりとすすぐ
- 希釈した塩素系漂白剤を排水溝と蓋に満遍なくまき、10分程度放置する
- 流水でよくすすぐ
排水溝は汚れが溜まりやすいので、丁寧に洗浄を行うようにします。
まとめ
今回は、食品工場など、さまざまな食品を取り扱う施設における、衛生管理の基本となるさまざまな場面での洗浄マニュアルをご紹介しました。
この記事内でご紹介した衛生管理のポイントや洗浄手順については、食品を取り扱う施設であれば本来当たり前のように行っているはずです。しかし、さまざまな技術が進化した現在でも、それなりの頻度で食品事故が発生しており、中には食品を取り扱う業者の基本である『洗浄』を怠ったことが原因となっている事故がいまだに存在しています。
このような衛生管理に関する基礎知識については、「うちはルールをきちんと作っているから大丈夫!」と考える企業が多いのですが、このような油断や慣れが施設内の洗浄不足に繋がるリスクが高まります。この記事を読んでいただいた方は、良い機会ですので、決められた洗浄ルールが自社工場内できちんと守られているのか、今一度チェックしてみてください。
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