食品工場を建てるまでの
基礎知識から計画立案まで
食品工場は、通常の建物と違って建設の難易度が高く、どこの建設会社や設計事務所に頼んでも作れるものではありません。建物を建てることは可能ですが、温度管理や、使い勝手、メンテナンス性など後から容易に変更ができない点も多く、食品や製造に必要な機能を計画段階から考慮しておく必要があります。また、食品工場の経験があっても取り扱う商材によって考慮すべき点が異なり、実績だけで選ぶことも危険です。その一例を見ていきましょう。
取り扱う商材によって
求められる役割
ROLE REQUIRED
このように、工場製品と違って様々な条件が絡んでくるので、まずは箱だけを建てるという訳にはいきません。食品工場は、大は小を兼ねることができないので、しっかりとした計画と準備が必要となってきます。老朽化してきたので漠然と建替えを検討しているような場合も、新たな法律や規制に対応しなければならなかったり、工場の建設、建替え、改修など目的を明確にしていかないと取り返しがつかなくなります。
食品工場建設のロードマップ
ROAD MAP
規模にもよりますが、計画から運用までに概ね2年ほどが目安となります。建設フェーズより、計画・設計フェーズの方が時間を要すのがわかります。
食品工場の建設までの道のり
ROAD TO CONSTRUCTION
process 1
新工場建設の目的の確定
工場建設の代表的な目的としては、「増産」「老朽化」「衛生改善」「拠点集約」「補助金活用」が挙げられます。
process 2
生産能力の確定(原料、製品物量把握)
食品工場建設は、生産能力が決まらないことには進められません。生産量を明確にすることで事業の採算性の検証が行え、事業計画の立案が可能となります。
process 3
目標予算の確定(土地、生産機械、建築)
事業計画に基づき、目標予算を設定する。尚、計画を進めていく中で予算の見直しが発生することが往々にしてある。決められた予算の中で計画を進める場合は、優先順位付けが重要となり、目的が明確でなければ優先順位を決めることはできず、計画が止まる。
process 4
改善テーマの抽出(安全安心・生産性)
既存の向上の問題点、改善点を明確にすべきである。既に工場を保有している場合は、既存工場の問題点を抽出し改善方法を新工場に反映させます。 改善するために投資が必要なこともありますが、予算に合わない場合、ここでも目的を明確にしておくことで投資の判断ができます。
process 5
生産工程、衛生基準の確定
稼働した後に製造に必要な機能を十分満たすように作業時間やユーティリティーの能力を設定する。また、実現したい衛生レベルも明確にする。これらの設定が適正でなければ想定していた機能が果たせず、無駄な投資となる。
工場メンテナンスの重要性
IMPORTANCE OF MAINTENANCE
ただ建てるだけではなく、中長期のメンテナンス計画に合わせた建材を選んだり、機械が入れ替えられるように開口部を大きくとったり長く稼働させることを前提としています。設計段階からイニシャルコストだけではなく、定期的なメンテナンスも考慮した予算を組む必要があります。また、誰がメンテナンスをするのかも含めて、計画に盛り込んでおく必要があります。
予算とのバランス
BALANCE WITH BUDGET
ここまでどのように建物を建てるべきかイメージができたのではないでしょうか。誰もが最新できれいな工場を建てたいと考えますが、予算の壁が立ちはだかります。なるべく安く建てたいですが、食品工場はオーダーメイドのため、大量に流通している建材や規格サイズの建材を使って安く建てることが難しいです。状況によっては新築だけではなく、改修や増築、部分建替えなども検討しましょう。
新しい土地もなく、生産活動を止めることができない場合は、稼働しながら改修するしか選択肢がない場合もあります。また、工場建設は自社の一大プロジェクトで、あれもこれもと、機能や設備を詰め込んで予算が膨れ上がる傾向が”よく”ありますし、建設期間として1~3年、稼働してからのメンテナンスタイミングで年単位で時間がかかります。物価は上がることはあっても下がることはないので、少なくとも5年先を見越した事業の採算性を考慮した予算組みが必要となります。
新築
メリット
既存不適格や違法建築など、既存建物による法的な制限がない
施工や引越しによる生産停止など影響がない
デメリット
土地の条件により、開発、造成工事が必要となる
場所によっては雇用者の確保が困難となる
建て替え
メリット
新たに雇用者の確保をする手間がなくなる
既存のインフラを利用することができる
デメリット
既存土地の条件や既存建物の残す程度により、設計の自由度が低くなる
増築
メリット
既存工場に不足している機能だけを補う計画でに留められる
デメリット
面積や運用に制限があるため、使い勝手が悪くなる可能性がある
増築の位置により、施工による生産停止など影響がでる
改修
メリット
デメリット
大掛かりな改修工事の場合、施工による生産停止など影響がでる
生産機械が収まらない、既存のインフラが足らないなど可能性がある
ここまでで、食品工場建設を計画するポイントが理解できたと思いますので、上限予算を決め優先順に沿って設計へ挑みましょう。
次は、設計において気を付けるべき点を見ていきます。