法令/行政
投稿日:2020.09.17
更新日:2022.09.26
今回は、食品工場などの事業者様に向けて、社員のモチベーションを高めるため実際に行われた対策を農林水産省の資料からピックアップします。 食品製造施設での仕事は、常に同じ位置に立ったままで長時間働かなければならない…、調理場が高温・高湿下となるため、体力がいりそうという印象から、『食品工場の仕事=過酷』と言ったイメージを持っている方が多いのではないでしょうか?実際にインターネットで『食品工場』と調べてみた場合、関連検索ワードととして「食品工場 きつい」「食品工場 地獄」「食品工場辞めたい」などのネガティブなワードが多く登場するなど、食品工場に仕事に対してはあまり良いイメージを持っていない方が多いように思えます。 それでは、食品製造施設などで、社員が高いモチベーションのもと働いていくためには、どういった対策が必要になるのでしょうか?ここでは、『食品製造業 社員のモチベーションを高める ヒント事例集』から、実際に行われた対策とその効果をいくつかご紹介していきます。
参考資料:農林水産省『食品製造業 社員のモチベーションを高める ヒント事例集』
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それでは、農林水産省が公表している『社員のモチベーションを高める ヒント事例集』をご紹介していきましょう。ここでは、筆者が面白いなと感じた対策と、それによる効果をいくつかピップアップしていきます。
まずは、カット野菜の製造施設で行われた対策からです。この企業では、繁忙期になると肉体的・精神的につらい職場環境になってしまうということから「入社する社員も多いが辞める社員も多い」ということに課題を感じていたそうです。さらに近年では、労働人口の減少などの問題から、パートタイム社員の獲得が難しい状況になってしまい、「社員が辞めない環境作り」が急務となっていたそうです。 そのためこの企業では、人が辞めない環境作りをテーマとして、以下のように福利厚生施設の充実を行っています。
この企業では、人海戦術で対応していた作業について、社員の肉体的負担を軽減するため、機械による自動化を進めました。また、社員から要望の多かった休憩施設の改善にも取り組んでいます。例えば、休憩施設に木材を使用したり、マッサージチェアを設置することで、社員が精神的にリラックスでき、ゆっくりと体を休められるスペースを作るという取り組みを行っています。
上記のような対策を行った所、2012年以降行っている社員アンケート調査で、福利厚生や給与に対する満足度が向上したという結果が得られています。
次は、総菜製造を行う企業が行った取り組みです。この企業では、社員の離職、特に新入社員の早期離職が問題となっていたそうです。そのため、新入社員教育に合わせて、仕事を継続できる仕組みの構築が必要とされていました。そこで、社員の早期離職を防止するためにも、「働くことに誇りを持てる会社を目指す」というテーマを作り、経営理念として成文化するとともに、誇りを持てる会社とはどのような会社かを、社員の方にも考えてもらうために以下のような取組を開始したそうです。
平成28年に社内における人材育成やコンプライアンス研修を一手に引き受ける『共育チーム』という部署を新設しました。共育チームという名称は、教えられる側だけでなく「教える側もともに育つ」という考えからつけられたそうです。 この取り組みでは、まず新入社員は入社してから1年間は共育チームに配属されるという決まりとなっており、研修を兼ねて各部署の業務を体験しながら、会社全体のことを知り、2年目に正式な部署に配属されるという決まりになっています。また、共育チームにおける活動の中で、他企業の取り組みや知見を自社に取り入れることを目的として、外部企業見学を行うようになっています。他企業の訪問に関しては、全社員から参加者を募集する形をとっており、強制ではなく自主的な参加となっています。なお、企業訪問後には、自社へのフィードバックを目的として、訪問企業毎のチームが訪問結果を発表することになっています。
上記のような取り組みを行った結果、社員の定着率向上が見られました。具体的には、入社3年目までの社員の状況で、1年目、2年目の社員で退職者は1名(2年間で9名の入社)となったなど、早期離職の大幅な減少がみられました。また、共育チームは部署をまたいだ活動となるため、部署を超えた交流が盛んになることで、部署間の連携も良くなったと感じているそうです。
最後は社員が抱えている不満や要望などを気軽に伝えられるようにするために意見箱の設置をおこないました。どのような企業に勤めていたとしても、会社への不満や要望などは簡単に口にすることは難しいものです。しかし、伝えたいことがあるのに、その意見が人に言えず我慢し続けなければならない状況になってしまうと、結果的にモチベーションの低下を招いてしまい、最悪の場合は社員の早期退職を招いてしまうことになります。 加工食品製造及び販売を行うこの企業でも、過去に自分の意見が言えずに社員が退職する…とった流れが存在していたため、できるだけ気軽に自分の想いや意見を伝えられる意見箱を設置したそうです。
社員の声を集めるため意見箱を設置するという対策はよく見られます。しかし、せっかく意見箱を設置しても何の反応もない…なんてことも珍しくないのです。そこでこの企業では、意見の提出先を一つに絞るのではなく、工場長や自分が意見を伝えたい部署宛など複数設置することにしています。また、堅苦しい意見箱のイメージをできる限り払拭するためにも「ダイレクト」や「ぶっちゃけ」といった言葉を意見箱の名前に採用し、気軽に意見を出せるような工夫を行っています。
企業が自社内に設置する意見箱では、何の反応もない…なんてことも多いなか、業務改善等の貴重な意見が投函されている場合もあるそうです。まだまだ意見の収集数が多いとは言えませんが、今後もより『風通しの良い環境』をつくるため、改善・運用を続けていくとのことです。
今回は、食品製造業界の企業において、社員のモチベーションを向上するためにとられた実際の取り組み事例についてご紹介してきました。冒頭でご紹介したように、食品製造業界では、業界全体のネガティブなイメージなどで新たな若手人材の確保に苦戦しているという企業も非常に多いと言われています。さらに、せっかく採用した社員でも早期退職してしまうことも珍しくなく、人材の定着率改善なども大きな課題の一つになっていると言えるでしょう。 もちろん、こういった業界内の問題はどの企業も認識していることだと思いますし、なんとこの状況を改善するための取り組みに頭を悩ませているのではないでしょうか? そこで、自社に導入する新たな取り組みを検討する際には、他社が行った取り組み事例やその成果を良く調べてみましょう。
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。