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投稿日:2024.03.29 

食品工場の省エネルギー手法【ヒートポンプ活用版】

気候変動問題が人類共通の喫緊の課題として認識され、先進国を中心に2050年までに自国の温室効果ガス排出量をネットゼロ(排出量と吸収量を合わせて正味ゼロ)とする方針が示されている。我が国でも2050年カーボンニュートラル宣言が発せられ、省エネルギー対策や電気自動車の普及など電化への取組みが強まっています。

 

一般に食品工場は原料から製品へと付加価値をつけるプロセスにおいて、加熱、冷却、冷凍、乾燥など大量のエネルギーを投入する工程が連続することが多く、エネルギー多消費産業といえます。特に熱の利用にはボイラやガス給湯器など化石燃料を使用することが多く、燃焼をともなうCO2排出に直結しています。そこで近年、熱分野の脱炭素化に向けた重要技術として産業用ヒートポンプの活用が注目されています。

そこで、この記事では食品工場の省エネルギー手法としてヒートポンプ活用における事例や産業ヒートポンプ導入に活用できる補助金について紹介します。

 

ヒートポンプとは?

ヒートポンプとは少ない投入エネルギーで空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術のことで、身の回りにあるエアコンや冷蔵庫、エコキュートなどに利用されている省エネ技術です。

 
ヒートポンプ・蓄熱センターWebサイト、ヒートポンプとは
出典:一般財団法人 ヒートポンプ・蓄熱センターWebサイト、ヒートポンプとは

燃焼式加熱器が化石燃料の持つ熱エネルギーを取り出し活用することに対して、ヒートポンプは小さな電力で大きな熱エネルギーを移動させる仕組みなので、投入するエネルギーの何倍もの熱エネルギーを得ることができます。

特に我が国では化石燃料などの一次エネルギーから最終的に利用される熱消費までの間に6~7割の熱ロスが発生しているとも言われており、ヒートポンプを活用した熱回収などの熱エンジニアリングの普及が期待されています。

 

産業ヒートポンプの活用

食品工場をはじめ製造業の加温・乾燥プロセス等で使用される産業用ヒートポンプには以下の種類があります。

 
産業用ヒートポンプ導入量把握調査結果
出典:一般社団法人日本エレクトロヒートセンターWebサイト、2022年度の産業用ヒートポンプ導入量把握調査結果 報告書

 

産業用ヒートポンプの適用可能域は、食品製造業の加熱・乾燥・冷却や機械製造業の塗装・乾燥・洗浄など、熱媒体や温度帯も含めて多岐に渡ります。

取り出せる熱媒体としては温水・冷水・熱風・蒸気があり、その熱源としては空気・水に加えてプロセスから発生する排温水・排蒸気、さらに地下水・温泉排湯などの未利用エネルギーからも熱利用が可能であり、適用領域は無限大とも言えます。しかし、その反面ケースバイケースの機種選定やエンジニアリングが求められるため、省エネルギーの面で高いポテンシャルを持ちながらも急速に普及しているとは言い難い現状にあります。

普及促進には有効な事例を出来るだけ多く情報共有して再現活用する地道な取り組みが有効といえるでしょう。

そこで、一般社団法人日本エレクトロヒートセンターでは、廃熱・未利用熱利用総合WEBサイトとして、「産業用ヒートポンプ.COM」を運営しています。このサイトでは導入事例の共有だけでなく、活用できる補助金情報や産業用ヒートポンプを実際に導入検討するときに相談先となる事業会社の窓口も掲載されております。
一般社団法人日本エレクトロヒートセンターWebサイト
出典:一般社団法人日本エレクトロヒートセンターWebサイト、産業用ヒートポンプ.COM

 

食品工場における産業ヒートポンプの適用事例

産業分野では、工場空調、プロセス加熱、プロセス冷却など様々な用途に熱が利用されています。生産プロセスは個別性や専門性が高くバリエーションも多岐に渡りますが、食品工場を事例とすると給湯・洗浄・加温・乾燥には従来より蒸気ボイラが熱源として利用されてきました。蒸気は熱密度が高く、大容量の熱を圧縮して送ることができるため優れた熱媒体といえます。しかし、昨今の化石燃料高騰や燃焼ガスにはCO2が多く含まれることから、ボイラとヒートポンプを組み合わせたハイブリッド方式を採用するケースが増えてきました。ベース負荷を高効率なヒートポンプが受け持ち、変動負荷は瞬発力のあるボイラに任せる組み合わせとすることで、システム全体の総合効率を向上させることが可能となります。

 

加熱と冷却が同時に必要とされるわかりやすい事例として、冷凍めん製造プロセスへのヒートポンプ適用例を紹介します。
空気・水熱源エコキュート導入事例
(出典:株式会社前川製作所 空気・水熱源エコキュート導入事例)

 

冷凍めんの製造工程ではめんを茹でるボイル槽と冷水槽が連続しており、加熱と冷却を同時に行っています。特にボイル槽では茹でられためんが水を含み太くなるため常に給水が必要となり、その加温としてボイラ蒸気が送られています。一方、冷水槽では茹でられためんを急速冷却する必要があり、冷水をかけ流しで使用しています。そこで、冷熱と温熱を同時に製造できるヒートポンプを活用して、60℃温水と4℃冷水を同時に供給することで約50%の省エネルギーを実現しました。

食品工場の生産プロセスの大半では熱エネルギー源として化石燃料を燃焼するボイラが使われています。ボイラは構造がシンプルなため比較的設備費が安く、重油や都市ガスなどの燃料が安価に利用できた時代には経済性に優れていたが、燃料価格の高騰や地政学的な不安定さがある現在、化石燃料への依存を減らすことの説得力が増してきています。さらにカーボンニュートラルを目指すには、熱エネルギーを必要とする生産プロセスの電化が必要であり、その点においてもヒートポンプは最も有望な手段となっています。ご参考として産業ヒートポンプ機器の開発製造と食品製造プロセスへ実装するための熱エンジニアリングに取組んでいる事業会社での事例を紹介します。

 

出典:株式会社前川製作所Webサイト、CO₂排出量実質ゼロへ地球にやさしい脱炭素工場

 

産業ヒートポンプ導入に活用できる補助金

突発的なエネルギー価格高騰への対応力強化や、カーボンニュートラル実現の観点から省エネの重要性がより一層高まる中、我が国では工場等における省エネルギー設備への更新に対する支援が継続的に行われています。特に脱炭素につながる電化・燃料転換を促進する補助金類型を新設するなどして、さらなるエネルギー使用の合理化に手詰まり感のある産業部門ユーザーを支援すると同時に、関連業界サブユーザーの技術力向上を施策面で後押ししています。

令和5年11月10日に閣議決定された令和5年度補正予算案の省エネ支援策パッケージを以下に紹介します。

 

出典:経済産業省 資源エネルギー庁Webサイト、省エネ支援策パッケージ

 

まとめ

今回は、食品工場のヒートポンプ活用法についてご紹介しました。

食品工場では排温水やチラーの冷却水など多くの低温排熱が発生していますが、産業用ヒートポンプで熱を回収し再度高温に変換することで熱エネルギーとして再利用することができます。熱の再生、リサイクルはヒートポンプのみが有している機能で、これを利用することで工場の投入エネルギーを大幅に減らすことができる可能性があります。

生産プロセスの見直しや新工場建設の際には、投入から排出までの熱エネルギーの流れに着目したうえで、どこかにヒートポンプが活用できないか、計画段階から検討することを是非お勧めいたします。

 

この記事を書いた人

sande

安藤 知広

FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長

1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。