工場
投稿日:2023.11.08
更新日:2023.11.27
企業の脱炭素推進や電気代削減への取り組みの中で、近年「PPA(Power Purchase Agreement)」方式による太陽光発電システムの導入が注目されています。
PPA方式による太陽光発電の導入は、初期費用、保守メンテナンスなどの維持が不要で、手軽に太陽光発電システムの導入が可能というメリットがあります。工場や倉庫など、大規模施設への太陽光発電の導入は、設置にかかる初期費用が大きくなります。よってこの問題を解消することができるPPA方式による太陽光発電の導入が注目を集めています。
しかし、PPA方式には、大きなメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点が指摘されています。そこで当記事では、PPA方式の概要とそのメリット・デメリットを解説します。なお、近年では、いくつかの自治体で太陽光パネルの設置義務化が進んでいることが話題になっているため、太陽光パネルの義務化についても簡単に解説します。
Contents
それではまず、PPA方式による太陽光発電の導入がどういったモデルなのかを簡単に解説します。環境省の特設サイトに分かりやすいイラストがあったため以下に引用します。
引用:環境省サイトより
PPA(Power Purchase Agreement)は、電力販売契約という意味で第三者モデルとも呼ばれています。具体的には、上のイラストの通り、太陽光発電を所有する事業者(PPA事業者)と、太陽光発電の電力を必要とする需要家(電力の使用者)が電力を売買するための契約です。
PPA方式では、PPA事業者と電力購入契約を交わすことで、太陽光発電設備を設置するための敷地を提供する代わりに、太陽光発電の導入や保守管理にかかる費用などをPPA事業者に負担してもらうことができます。PPA事業者側は、設置した太陽光発電設備で作った電力を需要家に買い取ってもらうことで、太陽光発電の設置にかかった費用を回収します。
それでは、PPA方式による太陽光発電の導入はどのようなメリット・デメリットがあるのかも解説します。
PPA方式には以下のようなメリットがあるとされています。
PPA方式には以下のデメリットがあるとされています。
ここからは、2023年現在の太陽光パネル設置義務化への動きについて簡単に解説します。
東京都は一般住宅への太陽光パネル義務化が決定
東京都における太陽光パネル義務化については、大手メディアなどでも盛んに取り上げられていました。東京都では、2030年までに、都内の温室ガス排出を50%削減する「カーボンハーフ」の実現を目標としています。そして、この目標の実現のため、2022年12月に太陽光パネルの設置を義務化するための改正案が可決・成立し、国に先行して一般住宅での太陽光パネル設置の義務化が決定しています。なお、この条例の施行は、2025年4月からとされています。
太陽光パネルの設置が義務付けられる対象者は「大手ハウスメーカー等が供給する新築住宅など」とされており、新築住宅の購入者ではありません。また、「面積が小さい」「北向き」といった屋根条件により、設置対象から除外される場合もあるとされています。
東京都では、これに加えて大幅な脱炭素を工場やオフィスなどの事業所に義務付けする条例改正案が提出されています。現状、改正案に関する詳細な内容は不明ですが、令和7(2025)年4月1日に施行することを目指しているとのことですので、今後も注視しなければいけないでしょう。
画像引用:東京都HP
参照:東京都公式サイトより
神奈川県川崎市では、脱炭素社会の実現に向けて、2023年3月に太陽光パネルの設置を義務化する条例改正案が可決し、2025年4月から設置の義務化がスタートするとしています。
川崎市では、延べ床面積が設置義務対象者の基準となっています。延べ床面積2,000平方メートル以上の新築や増改築建築物の場合、建設主に太陽光パネルの設置が義務付けられます。また、川崎市内で、延べ床面積50,000平方メートル以上の住宅を供給する住宅メーカーは、延べ床面積2,000平方メートル未満であっても、新築建築物への太陽光パネルの設置を義務付ける予定となっています。
参照:川崎市地球温暖化対策推進条例を改正しました
群馬県では、2019年に2050年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」が策定されていて、その中で2050年までに温室効果ガスの排出量ゼロが掲げられています。そして、この目標の実現のため、2022年に一定の基準に該当する建築物に対して、再生可能エネルギー設備などの導入を義務付ける条例が制定されています。
太陽光パネルなど、再生可能エネルギー設備の導入を義務化する条例は、2023年4月から施行されており、延べ床面積2,000平方メートル以上の建物を新築、増改築する際には、太陽光発電やバイオマスボイラーなどの再エネ発電設備の設置が義務付けられています。また、導入計画および工事完了報告の提出も義務付けられていて、その内容を県が公表するとしています。
参照:再生可能エネルギー設備等導入のお願い
京都府においては、2015年に制定された「京都府再生可能エネルギーの導入などの促進に関する条例」により、一定の基準に該当する建築物は、既に太陽光発電の設置が義務付けられています。2015年に制定された条例では、延べ床面積が基準となっており、延べ床面積2,000平方メートル以上の建築物は、太陽光パネルの設置が義務付けられています。
なお、この条例は2021年に改正されており、延べ床面積300平方メートル以上の事業所・住宅・ビルを建築する際は、太陽光パネルの設置が義務となっています。
参照:京都府再生可能エネルギーの導入等の促進に関する条例
今回は、太陽光発電設備の導入にかかる初期費用を軽減できると注目されているPPA方式の概要と各自治体で急速に強まっている太陽光パネル設置義務化の動向について解説しました。
世界中で脱炭素への取り組みが注目されている中、事業活動に使用する電力について、再生可能エネルギーへの転換が強く求められるようになっています。実際に、広大な屋根面積がある工場や倉庫などでは、太陽光発電設備の導入が急速に進んでいます。ただ、大規模施設での太陽光発電設備の導入は、どうしても設置にかかる初期費用が高額になる点がネックとなり、太陽光発電設備の導入が見送られるケースも少なくないようです。
脱炭素や省エネへの取り組みを詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
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記事内でご紹介した「PPA方式」では、太陽光発電設備の導入にかかる初期費用や、運用にかかる手間とコストをPPA事業者に負担してもらうことができるため、工場などの大規模施設での太陽光発電設備導入では非常に心強いモデルとなるのではないでしょうか?
記事後半でご紹介したように、近年では2050年カーボンニュートラルに向け、太陽光発電設備の設置を義務付ける自治体の動きが強まっています。また、国も太陽光パネルを含めた再生可能エネルギーの普及を強く推進しており、国土交通省・経済産業省・環境省が連携し、有識者や実務者を加えた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」を設置しています。2021年6月に行われた検討会では、一般住宅への太陽光パネル義務化は見送られていますが、各自治体の動向を見る限り、政府による太陽光パネル義務化もいずれ始まるのではないかと予想できます。
参照:脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会
この記事を書いた人
安藤 知広
FACTASブランドマネージャー
執行役員東京本店長
1994年当社入社、工事管理者として工場建設における問題と多くの事例を経験。
2013年から東京本店次長として数多くの食品工場建設のプロジェクトリーダーを務める。
2018年10月ファクタスブランドマネージャーに就任し、食品工場建設における技術の体系化を進めております。